民間初の分譲マンションと61年後の建替計画

日本住宅公団が昭和30年に設立され、全国の主要都市で集合住宅建設がはじまります。賃貸住宅もあれば個人が購入する分譲住宅、さらに企業が購入し社宅とする「特定分譲」といった形式もありました。

公的住宅の供給が活発になるのと時を同じくして、民間でも分譲形式のマンション開発がスタートします。

日本で最初に民間マンション分譲事業に乗り出したのは、デベロッパーでもなく大手ゼネコンでもない、北陸富山で創業した中堅ゼネコンと、出資先であった設立まもない分譲地の月賦販売会社でした。

最初の事業地となったのが、四谷駅から徒歩5分にある308坪の土地です。

四谷コーポラスとは

「四谷コーポラス」は東京都新宿区四谷本塩町4-1に建つ分譲マンション。1956年(昭和31年)10月竣工の全28戸、5階建てメゾネットタイプの集合住宅です。

日本で最初の民間分譲住宅といわれますが、四谷コーポラスの前にも分譲形式の集合住宅はありました。同潤会アパートがのちに区分所有に変更されたり、東京都住宅協会による分譲集合住宅などもありますが、個人を対象とした民間分譲マンションは紛れもなく四谷コーポラスが日本初でした。

事業主:日本信用販売株式会社(事業当初、のち株式会社日本信用販売不動産部として分離独立、親会社は日本信販に改称し現在の三菱UFJニコスになります)
施 工:佐藤工業株式会社

このころ日本信販は、東急不動産が開発した分譲地の月賦販売をおこなっていましたが、自社独自の不動産開発事業を模索していたのです。

日本信販内に不動産部を新設し事業企画を練っていたところ、事業用の土地として浮上したのが、日本信販の株主であった佐藤工業の三代目社長個人が所有していた土地でした。

四谷コーポラスには特徴的なことが3つあります。

1. 基本設計は日本信販の設計部門が主体でおこないましたが、実施設計の時点では購入予定者の希望を取り入れる、セミオーダーシステムの“コーポラティブハウス” として企画
2. 区分所有法制定前のため共有登記であったが、専有部分と共有部分の定義と区分を、売買契約書上でおこなった
3. 入居後まもなく管理組合がつくられた

このように個人向け民間分譲としてもはじめてであり、区分所有に対する法的制度のないなかで、区分所有という概念にもとづいて、権利関係を整理したはじめてのケースだったといえるのです。

登記は「居宅部分」に附属する形で、共有部分の持分面積が表記される形式でした。また分譲当初の敷地は日本信販所有であり、借地料を所有者は支払っていました。

敷地はのちに日本信販から売却され、所有者全員の共有に変っています。

日本信用販売不動産部はこのあとも、昭和46年まで毎年のようにコーポラスシリーズの分譲事業をおこなっていったのです。

マンション建替えプロジェクト

分譲マンションは多数の人たちにより区分所有され、建替えにあたっては管理組合総会にて5分の4の賛成により、建替えの決議ができるよう区分所有法は定めています。

2000年(平成12年)には「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」が成立、さらに2002年(平成14年)に「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」の成立により、マンション建替えにあたっての法律の整備がなされました。

四谷コーポラスでは平成16年ころより、修繕ではなく再生の話題がでるようになったようです。そして平成23年の東日本大震災により、いよいよ建替えの気運が大きくなり、2年後に「耐震診断」をおこなうに至りました。

耐震診断をおこなうと昭和31年の築です、当然ですが耐震診断の結果は不適合であり、再生計画の検討に進むことになったのです。

2014年(平成26年)には「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」が「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」へと名を改め、耐震性に問題のあるマンションについては、容積率の割増しなどの緩和規定が生まれました。

この法改正により、現状延床面積2,290㎡、住戸数28戸のマンションは、延床面積2,767㎡、住戸数51戸(うち販売戸数28戸)として再生案が計画されるのです。

マンションの建替えにあたっては、資金面がネックになることが多いのですが、延床面積の増加と住戸タイプの変更により、販売戸数を28戸(再取得戸数23戸)にできたことが成功の要因です。

そして新築から61年経過のわりには、所有者の変更があまりなかったことが、スムースな合意形成につながったものと考えられます。

また再生プランを、同潤会江戸川アパートメント建替え事業パートナーとして実績のある、旭化成不動産レジデンスに託したことも成功の要因であったのでしょう。

区分所有法とマンション建替え問題

区分所有法は四谷コーポラスの完成から6年後、1962年(昭和37年)に成立します。正式名は「建物の区分所有等に関する法律」です。

四谷コーポラスはしたがって区分登記はできず、持分による「共有登記」だったわけです。

昭和37年制定の区分所有法には建替えに関する定めはなく、民法第251条(共有物の変更)  では「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。」と規定しています。

1983年(昭和58年)の改正で「建て替え決議」が新設され、5分の4以上の賛成で建替えが可能になるのですが、建替え決議によらず全員合意による建替えもおこなわれています。

平成31年4月1日現在建替え工事完了済棟数は244棟(マンション建替え法によるもの83棟、マンション建替え法によらないもの161棟)といった状況です。
出典:国土交通省「マンション建替えの実施状況 」

平成30年末のマンションストック戸数は約654.7万戸、うち旧耐震基準のマンションは約104万戸あるとされています。

分譲マンション,推移

引用:国土交通省「分譲マンションストック戸数」

別のデータでは、旧耐震基準マンション物件数は1万1,280件、戸数は79万3,633戸(平成29年末)とされ、およそ1万棟の建替えが急がれるマンションが存在しています。

出典:株式会社不動産経済研究所「不動産経済 マンションデータ・ニュース 2017年12月18日」

現在のところ建替え進捗率はおよそ2.4%であり、建替えが進まない原因や問題点についての研究と、建替え促進を図る法整備がさらに必要であると考えられるのです。

参考サイト

旭化成ホームズ「「四谷コーポラス」建替えについて」
J-Stage「区分所有法から見たマンション管理の課題」
マンション再生協議会
国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
国土交通省「建替え実施計画の策定実務」
【参考書籍】
・『四谷コーポラス』 発行者:四谷コーポラス建替え推進委員会 編者:志岐祐一、松本真澄、大月敏雄 協力:旭化成不動産レジデンス 販売所:株式会社鹿島出

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