【不動産業者なら注目したい】老朽化したマンションの再生を加速させる法改正のポイント

国会に提出される法律案は、大きく分けて議員立法(国会議員が提出)と、内閣立法(内閣が提出)に分類されます。

内閣立法では、各省庁で作成された法律案の原案が内閣法制局で予備審査された後、国会へ提出され、衆議院及び参議院の両院で可決されることで法律となります。

不動産業者にとって、法改正は業務に直接の影響を及ぼす重要な事柄です。販売手法の見直しや書類形式の変更を求められるだけではなく、顧客に対する説明責任を果たすためにも、新たな法律の内容や施行時期を十分に理解しておく必要があります。このため、施行が確定している法律だけではなく、国会に提出される法律案についても、早い段階で把握しておくことが重要です。

2025年1月24日に招集された第217回国会(常会)では、不動産業を管轄する国土交通省が5つの法律案を提出です。その中でも不動産業者に深く関係するのが、「道路法等の一部を改正する法律案」と「老朽化マンション等の管理 及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」の2つです。

特に、老築化マンションの増加がもたらす社会的・経済的な影響は見過ごせず、区分所有建物の再生に関する法律の見直しは喫緊の課題です。

今回は、私たち不動産業者に特に密接した老朽化マンションに関する法律改正案について解説します。

老朽化の定義とマンション数

マンションの老朽化とは、建物や設備が経年劣化によって安全性を損ない、居住が困難になる状態を指します。具体的な築年数で定義されるわけではありませんが、適切な維持管理や修繕がなされていない場合、建物の安全性だけではなく居住環境や周辺地域、さらには都市全体の環境にまで影響を及ぼす可能性があります。

しかし、所有者が単一であることの多いオフィスビルと異なり、区分所有者が多数存在しそれぞれの価値観や経済状況も異なる分譲マンションは、大規模な修繕や建て替えに関する合意形成が難しいという特性があります。

さらに、管理組合の運営や資金確保に課題を抱えているケースも少なくありません。

国土交通省の調査によると、築年数が経過したマンションほど居住者の高齢化が進み、管理組合の担い手が不足している実態が明らかにされています。全管理組合の約15%が組合の運営に不安を感じ、そのうち25%は修繕積立金の不足にも不安を感じているのです。

2023年末時点でマンションストック戸数は約704.3万戸に達し、日本国民の1割以上がマンションに居住していると推定されています。

2023年の新規供給戸数は6万5,062戸であり、マンションストック数は年々増加を続けています。しかし、適切な管理や修繕が行われなければ建物の寿命は短くなり、資産価値が大きく損なわれるリスクがあります。

マンションの法定耐用年数は税務上47年とされていますが、マンションの寿命に関しては様々な研究成果があります。例えば、国土交通省が2011年に実施した固定資産税台帳の滅失データをもとにした調査ではマンションの平均寿命を68年と推測しました。しかし、その多くは新耐震基準以前に建てられたものです。マンションの性能は日々向上していますから、適切なメンテナンスを施せばそれ以上の使用に堪えることが可能でしょう。

国土交通省は2013年(平成25年)に「RC造の寿命に係る既往の研究例」を公開していますが、鉄筋を被覆するコンクリートの中性化速度から算定し中性化が終わったときをもって効用持続年数が尽きると考えた場合における耐用年数は120年、メンテナンス次第では150年まで延長できるとの研究成果を掲載しています。

とはいえ、「耐用年数=快適に居住できる」という図式は必ずしも成り立ちません。快適な住環境を維持するためには、管理組合の運営や修繕積立金の額、そして区分所有者の意識が大きく影響するからです。

国土交通省の試算では、2042年末時点で築40年以上の分譲マンション数は約445万戸に達すると予測されており、マンションの長寿命化と再生の円滑化が社会的課題となっています。

「マンション建替え円滑化法」は2002年に制定され、その後改正を重ね、要除去認定マンションの要件緩和などが進められてきました。現行法は令和4年6月17日に施行されましたが、2024年4月1日時点の建て替え実績は累計297件(約24,000戸)、敷地売却は11件(約700戸)にとどまっています。この数字は築40年以上のマンション増加ペースと比較すると極めて少なく、建て替えや敷地売却の合意形成がいかに困難であるかを裏付けています。

こうした背景から、マンション再生に関する法制度のさらなる整備や支援策の充実が求められているのです。

老築マンション対策法案の詳細

国土交通省が国会に提出するとした内容を見ても、詳細は明らかにされておらず概要が記載されているのみです。

しかし、法案提出前に行われた有識者会議などの内容を見れば、老朽化した分譲マンションにおける喫緊の課題として、「区分所有法制」の見直しが中心であると分かります。特に、老朽化したマンションでは非居住や所有者不明の物件が増加する傾向にあり、特別決議が機能不全に陥ることが指摘されています。

そこで、速やかに実施できる体制を盛り込み、区分所有建物の管理・再生が円滑化できるよう重点を置いています。

1. 集会議決要件の合理化

分譲マンションにおいて、区分所有者に大きな影響を与える重要事項を決定する「特別決議」は、
区分所有者総数の3/4以上、かつ議決権総数の3/4以上の賛成が必要です。建て替えや建物を解体して土地を売却する場合はさらに厳しく、4/5以上の賛成を必要となります。

その際、集会に出席した区分所有者及びその議決権の多数決により決されるのが原則です。しかし、老朽化したマンションでは非居住者や所有者不明化の割合が高く、彼らを分母に含めると特別多数決議が成立しない可能性が高まります。

そこで、非居住者や所在不明者などを分母から除外することを可能にし、特別決議が成立しやすくなるよう法案が提出されました。

2. 所有者不明専有部分管理命令(仮称)制度の創設

老築化したマンションでは、所在不明や連絡先不通の空室が増加します。国土交通省の調査によれば、昭和54年以前に完成したマンションでは、13.7%の物件で1戸以上、所有者不明または連絡先不通の空室があるとされています。

前述の「集会議決要件の合理化」が可決されれば、居所不明者等を分母から除外することは可能になりますが、特別決議後にクレームが生じる可能性は否定できません。そこで、「所有者不明専有部分管理制度(仮称)」を創設し、専任された管理人には処分に関する決議を含めた権限を与える仕組みが検討されたのです。

3. 敷地所有者等集会制度の対象拡大

政令指定災害により建物が全壊した場合、敷地権を有するものが再建集会を開催できる制度「敷地所有者等集会」があります。

これは、「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」に基づいており、集会で4/5以上の合意が得られれば敷地を売却できる仕組みです。しかし、この制度は被災地の健全な復興を目的としています。

そのため、対象を拡大し、既存不適格で単独の建て替えが不可能なマンションなどにも適用できるように改正することが提案されたのです。さらに、耐震性が不足している場合には、改修して継続使用を可能とするため、既存建物の除去を要件としないことが盛り込まれています。

4. マンション管理適正化法人(仮称)の登録制度の創設

老朽化したマンションでは、管理組合役員の担い手不足が深刻な問題となっています。近年、増加する管理会社が管理者となる方式は区分所有者の高齢化に対応するための有効な選択肢ですが、標準的なルールは定められていません。そのため、利益相反行為が多発する可能性があるのです。

そこで、管理会社が管理者となる場合のガイドラインを整備し、マンション管理適正化法人(仮称)登録制度を新たに創設するのです。登録業者には一定以上の管理水準が求められますから、登録業者に委託することで、マンション管理の適正化を実現できる可能性が高まるのです。

改正後に懸念される問題点

現行の区分所有法と借地借家法の関係において、分譲賃貸に入居している賃借人の権利が問題となる可能性があります。特に、老朽化したマンションでは賃貸比率が高くなる傾向があるため、この問題の解決は重要です。

法理論では、借家人の権利保護は所有権に内包されるとされていますが、実際には借地借家法が所有権を上回る判例が多く、制度改正の大きな課題となっています。

そのため、テナントなど生活基盤を有しない営業権利に関しては、一定の補償で退去を可能とする制度を模索し、退去により生活基盤を失う賃貸居住者に対しては、周辺の近傍同種物件への転居を確認した上で、賃借権を消滅させることを可能にする制度が検討されています。裁判所が迅速に認定を行い、手続きを円滑に実施できる制度の構築が急がれているのです。

まとめ

今回の解説は、提出される法案の概要とこれまでの有識者会議での検討事項を基に、おおよその内容を推測したものです。詳細が公開されるタイミングは法案によって異なり、今回については概略以上のものが明らかにされていません。

具体的な内容が明らかにされ次第、後日詳細をお届けする予定です。

不動産業者は、現状どのような問題が発生しているのか、そしてそれを解決するためどのような有識者会が開催され、改正案がどのように検討されているかを理解することが求められます。

不動産業は単なる売買実務にとどまらず、情報産業の側面が強いため、いち早く情報を収集し、適切な対策を講じることで新たなビジネスチャンスが創出でき、同時に顧客にたいして有益なアドバイスを提供することが可能になります。

そのためにも、情報には敏感に接し、主体的に考え行動することが求められます。変化に柔軟に対応し、ビジネスを成長させる意識を持つことが大切なのです。

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