【住宅購入の意思決定権は女性が握る?】表面からは見抜けない意思決定のメカニズム

【住宅購入の意思決定権は女性が握る?】表面からは見抜けない意思決定のメカニズム

不動産の営業職に従事している方であれば、教育訓練や経験則から、「ご夫婦やカップルが物件を購入あるいは賃貸する際には、多くの場合、女性側が実質的な決定権を握っている」と考えている方も少なくないのではないでしょうか。

実際、住宅を購入する際に夫婦のどちらが意思決定を主導するのかについては、様々な企業や団体がアンケート調査を実施しています。

これらを見ていくと、「女性の発言力が強い」あるいは「女性が実質的な意思決定を担っている」とする結果は少なくありません。

一方で、情報収集や物件比較は女性が担っているものの、最終的な意思決定は男性が行ったとする調査結果も見受けられます。

もちろん、これらのアンケートは調査対象やサンプル数、調査手法、設問設計などによって、結果は少なからず左右されます。

そのため、調査結果は重要な参考資料ではあるものの、その結果だけをもって短絡的に判断してはなりません。

例えば、2013年11月に株式会社リクルート住まいカンパニーと株式会社ベネッセコーポレーションが共同で、女性向けサイト『ウィメンズパーク』会員のうち、2006年1月以降に住宅を購入した25~49歳の女性を対象に実施したアンケート調査では、「主に夫」と「どちらかというと夫」の合計が45.9%となり、「どちらかというと妻」、「主に妻」の合計19.9%を大きく上回る結果となっています。

この調査は妻自身へのアンケートであるため、「夫の意見をより優先した」との趣旨でなされた回答結果は、実に興味深いといえるでしょう。

このように、「女性が決定権を握っている」と一概に結論付けることのできないデータも少なからず存在しています。

さらに、「最終的に契約を決めた人」と「実際の意思決定に最も影響を与えた人」が必ずしも一致するとは限りません。

実際の営業現場でも、「ここに決めましょう」と最終的に口にした人物とは別の家族が、意思決定に大きな影響を及ぼす場面も決して珍しくはないのです。

筆者自身も、夫婦ではなく幼いお子様の一言が決め手となり、競合他社との商談を制した経験があります。

こうした視点で営業現場を捉えると、一見矛盾しているように見える調査結果も、それぞれが意思決定プロセスの異なる側面を捉えたものとして理解できるようになります。

つまり、「誰が契約したのか」と「誰の影響で成約に至ったのか」は、必ずしも同じではないということです。

では、私たち不動産営業は、このような一見矛盾しているように見える調査結果を、どのように読み解けば良いのでしょうか。

そして、実際の営業現場において誰を意思決定者として捉え、どのようなアプローチを行うべきなのでしょうか。

本稿では、アンケート結果だけでは見えてこない「実質的な意思決定のメカニズム」を整理するとともに、筆者がこれまで学んできた行動経済学や認知心理学、さらには実践経験を踏まえ、決定権者を見極めるための観察ポイントや推察の手法、さらにはその見極めを営業活動へ落とし込む具体的なアプローチ方法、現場で活用できるトークスクリプトまでを体系的に解説していきます。

人の意思決定は、必ずしも「合理的」とは限らない

伝統的な経済学では、「人は常に自らの効用(満足度)を最大化するため、合理的な意思決定を行う存在(ホモ・エコノミクス)」であると考えられてきました。

しかし、現実の営業現場においては、このような伝統的経済学が前提とする考え方に反した意思決定がなされるケースの方が多いと感じられるのではないでしょうか。

例えば、明らかに予算を超えているにもかかわらず、「理想の間取りだから」と購入を決断するケースや、「十分に比較検討したうえで決断した」住宅が、プロの視点からみれば、立地や居住性、資産性、さらには出口戦略の観点で総合的に評価すると、同時に紹介した他の物件より劣っているケースは珍しくありません。

これは、人間が非合理だからではなく、限られた時間や情報の中で、感情や過去の経験、家族や他者からの影響などを総合的に考慮しながら意思決定を行っているためです。

つまり、私たちが漠然と感じているほど、人は「合理的」な存在ではないのです。

その一方で、限られた情報や認知能力の中で、その時点においては最善と思われる判断を下しているのもまた事実です。

このような考え方は、「限定合理性」と呼ばれ、現代の行動経済学や認知科学の基礎となる概念の一つとなっています。

こうした人間の意思決定を経済学と心理学の両面から解明しようとする学問が「行動経済学」です。

また、人間がどのように情報を認識し、記憶し、判断へ至るのかという心の動きを研究するのが「認知心理学」であり、この二つは、不動産営業が顧客の意思決定プロセスに関する理解を深めるためには欠かせない学問と言えるでしょう。

もっとも、この二つの学問を基礎から学ぶのは理想であるものの、日々多忙な皆さんが学生と同様の時間をかけて学ぶのは無理があるでしょう。

そのため、端的にではありますが、それぞれの学問がどのような領分を対象としているのか、また営業現場でどのように活用できるのかについて解説を続けます。

1.行動経済学

行動経済学は、人間の意思決定が直感や感情、認知バイアスなどの心的要因によってどのような影響を受けるのかを、経済学と心理学の視点から解明する学問です。

代表的な理論や現象としては、次のようなものが挙げられます。

◯プロスペクト理論

人間は、「利益を得る喜び」よりも「損失を被る苦痛」をより強く感じるという理論です。

例えば、「コインを投げて表が出たら20万円もらえるが、裏が出たら10万円損する」という勝負を持ちかけられた場合、計算上の期待値は5万円のプラス(利益)であるにもかかわらず、多くの人は「損する苦痛」を恐れてこの勝負を拒否します。

不動産購入の場面でも、顧客は「物件を購入することで得られる利益」よりも、「今決断しなければ、二度とこれ以上の物件と出会えないかもしれない」という機会損失の苦痛を意識した瞬間、意思決定が大きく傾く傾向が見受けられます。

よく営業現場で使われる「他に1組、検討されている方がいます」というトークも、無意識のうちに「他人に先を越されて損をする」という損失回避の心理を刺激する一例だと言えるでしょう。

もっとも、このようなトークは事実に基づいて用いることが前提です。

実在しない競合の存在を示唆することは、宅建業法上の問題を生じさせるのみならず、顧客の信頼を大きく損なう行為といえるからです。

◯アンカリング効果

最初に提示された数字や情報が基準(アンカー)となり、その後の判断や価格の感じ方が大きく歪められる現象です。

例えば、予算1億円で探している顧客に対し、最初に「1億3,000万円」のハイクラスな物件を内見してもらうと、その高い価格が心理的な基準(アンカー)となります。

そのため、次に本命の「1億1,000万円」の物件を案内すれば、本来は予算オーバーであるにもかかわらず「ずいぶん安く、お買い得に感じる」という錯覚、つまりは知覚される価値が総体的に高まる現象が生じます。

ただし、数多くの物件を内見して適切な評価基準を有している顧客に対しては、この効果も期待できません。

むしろ、あからさまに予算外の物件を紹介することで不信感を抱かれる可能性もあるため、使いどころには十分な注意が必要です。

◯確証バイアス

人は、「この物件が良い」と思い込むと、その判断を裏付ける好都合な情報ばかりを集め、都合の悪い反証情報を無意識に排除・軽視する傾向があります。

例えば、ワンルームマンション投資の検討シーンなどはその典型かもしれません。

ワンルームマンション投資は、将来的な需要予測や賃料相場の推移、空室率、修繕費、金利動向、さらには出口戦略など、多くの不確実性を伴うため、立地や購入価格、表面利回りだけではなく、これらを網羅した客観的な情報収集が極めて重要です。

しかし、購入することに前のめりとなった顧客は、販売業者の示す成功事例や節税メリットなどの情報ばかりを重視して、「ワンルームマンション投資は危険」といったリスクを指摘するコンテンツを無意識に避けてしまいがちです。

これは、自分が信じたい結論(投資は成功するという期待)に執着するあまり、リスクという不都合な真実から目を背けてしまう、人間の非合理的な情報処理の傾向だと言えます。

この傾向は住宅購入でも同様です。「この家に住みたい」と感じた顧客は、その物件が有する長所を積極的に受け入れる一方で、日当たりや周辺環境、将来的な資産価値といった懸念材料を過小評価することがあります。

このような顧客心理の理解を深めれば、悪用することも可能でしょう。

しかし、都合の良い情報だけを提供するのではなく、リスクも含めて誠実に説明する姿勢が、結果として顧客から信頼を得る結果につながることを忘れてはなりません。

◯社会的証明

人は、自分一人では判断の難しい局面ほど、「他者はどう考えているのか」を意思決定の材料とする傾向があります。

人生で最も高額な買い物であり、正解が見えにくい不動産取引において、この心理は近年、特に顕著な変化が見受けられます。

従来は親族や友人など、身近な信頼における方からの意見が中心でしたが、近年では加えて、ポータルサイトのレビューやSNSの書き込み、いわゆる「口コミ情報」を強力な判断材料としている傾向が見受けられます。

しかし、ネット上で確認できる情報は必ずしも正確であるとは限りません。

サイトによっては、アフィリエイト(成果報酬)目的の偏った推奨や、競合他社による意図的な誹謗中傷、あるいはサクラによる評価など、恣意的に真実が捻じ曲げられている可能性すらあるのです。

重要なのは、「多くの人が支持している」という事実と、「その情報が正しい」という事実は全く別であるという点です。

営業現場においても、「この物件は人気があります」「このエリアは、将来的な価格の上昇に期待がもてる地域です」といった情報は、顧客の意思決定に少なからず影響を与えます。

しかし、それらは判断材料の一つに過ぎず、さらには、そのような見解が希望的観測に過ぎない場合すらあるのです。

「皆が言っているから正しい」、あるいは「生成AIが回答した」との盲信は、時に大きな誤りを招くリスクを孕んでいると言えるでしょう。

2.認知心理学

認知心理学は、人が「どのように情報を受け取り、考え、判断するのか」という認知の仕組みを研究する学問です。

認知心理学を理解するうえで、ノーベル経済学賞の受賞者、ダニエル・カーネマンの提唱した理論は確実に抑えておきたいものです。

認知心理学そのものをダニエル・カーネマンが創始したわけではありませんが、同氏はエイモス・トベルスキーとともに、人間の意思決定に関する研究を通じて行動経済学の発展に大きく貢献しました。

先述した「プロスペクト理論」も、この2名によって発展した理論です。

◯ヒューリスティックとバイアス

ヒューリスティックとは、論理的な計算によらず、経験則や直感に基づいて十分に妥当と思われる判断を素早く見つけ出す思考法(近道となる思考)を指します。

この方法は、判断に至る時間が早い一方で、必ずしも正解とは限らず、その結果に一定の偏り(バイアス)を含んでいることも多いのが特徴です。

カーネマンは、人間の思考を「直感的なシステム1(速い思考)」「論理的なシステム2(遅い思考)」に分類しました。

住宅購入において、資金計画や住宅ローンの検討ではシステム2、つまり論理的・分析的な熟慮が行われる一方で、物件選択の局面では、システム1、つまり直感、感情、瞬間的な判断が強く働きます。

例えば、物件を選んだ理由を問われた顧客が、「何となく、ここに住みたいと思った」「第一印象が良かった」「ビビッときた」など、およそ論理的とはいえない回答をするのは、まさに直感(システム1)による判断がなされた証左です。

また、「営業担当者を信頼できると思った」「この会社なら安心できると思った」といった、住宅のスペックや資産価値とは直接関係のない要素を決め手にするケースも少なくありません。

これは、物件そのものではなく、関連して抱いた好意や安心感が評価全体へ波及する「感情ヒューリスティック」の典型例と考えられています。

実際には、システム1とシステム2は意思決定プロセスの中で何度も行き来しています。しかし、最終的に感情で方向付けられた結論を選択することは多いのです。

つまり、顧客は物件の価格や立地、性能だけを比較検討して意思決定をするのではなく、家族との会話や営業担当者への信頼感、将来に対する期待値や不安など、多様な心理的要因が複雑に絡み合いながら意思決定を形成しているのです。

したがって、不動産営業が見極めるべきは、「誰の言葉(あるいは口コミ情報など)が意思決定を左右しているか」なのです。

これこそが、実質的な意思決定の本質と言えるからです。

「実質的意思決定者」の観察ポイントとアプローチ

前章では、人間の意思決定が必ずしも合理的ではなく、直感を始めとする様々な認知バイアスによって支配されていることを、行動経済学と認知心理学の説明を交えながら解説しました。

それでは、私たち不動産営業はこれらの知見を踏まえたうえで、顧客の「誰が」「どのような」影響力を持っているのかを実践的に見極めるためには、具体的に何を注視し、どのようなアプローチを試みれば良いのでしょうか。

本章では、「実質的意思決定者」を推察するために必要な観察ポイントと、即座に使えるトークスクリプトを体系的に解説していきます。

1.見極めに必要な「3つの観察ポイント」

内見や商談中、顧客が発する言葉だけを頼りに心理状態を推し量ろうとすれば、本音を見誤る可能性が高くなります。

そのため、行動経済学や認知心理学の観点から、誰の感情や評価が周囲の意思決定に最も強い影響を与えているのかを、以下3つの非言語的シグナルから推察します。

①視線を追う

内見中にLDKに入った瞬間、あるいは間取り図を目にした時や、こちらから質問をした際、夫婦やカップルの「どちらが先に相手の顔へ視線を向けるのか」を観察してください。

これは、人が無意識のうちに自分の評価基準ではなく、「自分にとって重要な人物」の反応を確認する傾向があるからです。

例えば、質問に対する回答はご主人が行っていたとしても、その視線が奥様へ何度も向けられている場合、実質的な意思決定の主導権は奥様にある可能性が高いと考えられます。

もちろん、この観察結果だけで結論を出すことはできません。

しかし、他の観察ポイントと組み合わせることで、「誰の評価をもっとも気にしているのか」という仮説を立てる有力な材料になります。

②論理派が実質的意思決定者とは限らない

先述したシステム1(感情)とシステム2(論理)が対立した場合、一見すると返済金額などを検討する論理派が実質的意思決定者であるように見えます。

しかし実務では、感情派が気に入った物件について、論理派が予算内で収まるかどうかを確認しているだけというケースも少なくありません。

この場合、実質的な意思決定者は感情派であり、論理派は最終確認者(いわゆるゲートキーパー)に過ぎないのです。

もちろん、すべての夫婦やカップルにこの構図が当てはまるわけではありません。

重要なのは、「お金を管理している人」と「意思決定に方向付けている人」は必ずしも一致するとは限らないとの視点を持つことです。

営業初心者はよく、「お金の話をする人が意思決定者」であると見誤り、金銭的な話にばかり終始して感情派から反感を買うことがあります。

感情派が暇を持て余しているような状態では、その日に交渉が成立する可能性は低くなります。

もちろん、論理派自身が実質的意思決定者であるケースも少なくはありません。

重要なのは「論理派か感情派か」を見極めることではなく、「誰の評価が最終的な意思決定を方向付けているのか」を見極めることです。

③「こだわり」の非対称性を観察する

不動産の購入や賃貸物件の選択において、夫婦やカップルの希望条件が100%一致することはほとんどありません。

どちらの場合でも、少なからず妥協は生じるものです。

そこで、例えばご主人が「書斎が欲しい」と主張した時、妻が「あっさりと受け入れるか」、あるいは「冷ややかに却下するか」を観察するだけで、譲れない条件を通せる力、もしくは他方のこだわりを却下する権限をどちらが有しているかを推察できます。

いわゆる、家庭内のパワーバランスの見極めです。

ただし、このパワーバランスは物件や条件によって変化することがあります。

例えば、住宅ローンについては夫が主導し、キッチンや生活動線については妻が主導するといったケースはよく見受けられます。

このように、分野ごとに意思決定者が異なるケースは珍しくないのです。

そのため、一つの場面だけで判断するのではなく、複数の会話や反応を総合的に観察することが重要です。

2.見極めた後に実践する「ダブル・アプローチ手法」

実質的な意思決定者を見極めた後は、それぞれの役割に応じてアプローチを使い分けます。

もっとも、実質的意思決定者が見抜けたからといって、その人物にだけ偏った営業を行うべきではありません。

実質的意思決定者と思われる人物ばかりに話しかけると、確証バイアスや損失回避の心理が悪い方向に働き、商談が破談する可能性すらあるからです。

営業は「1対2」で。2つの心理的役割を見極め、アプローチを完全に二分する

これは、論理派を無視して感情派ばかりと盛り上がれば、論理派のプライドを著しく傷つけ、「本当にこの物件で良いのだろうか」「もっと条件の良い物件があるのではないか」といった論理的な粗探しを始めてしまう可能性があるためです。

実質的意思決定者と思われる人物を見抜けたとしても、アプローチは常に「1対2」を念頭に置き、アイコンタクトについても実質的意思決定者6割、論理派4割程度を意識すると良いでしょう。

実質的意思決定者には感情面の共感や将来の暮らしを想起させる提案を行い、一方で論理派には資金計画や市場データ、資産価値など客観的な根拠を示すのです。

このように、それぞれが重視する判断基準へ働きかけ、双方の満足度を高めるのが「ダブル・アプローチ」の本質です。

3.見極めと誘導トークスクリプト事例

    実際の営業現場で、自然な会話をよそおいながら顧客同士のパワーバランスをあぶり出すスクリプトには、次のようなものがあります。

    A.初回接客時

    例えば、予算について質問する場合、単に「ご予算は」と質問するのではなく、あえて意見の対立が予想される質問を投げかけ、そのリアクションを観察します。

    「住宅購入は多くの方にとって、一生に一度の大きな買い物です。そのため、ご夫婦で意見が完全に一致するケースは、実はそれほど多くないのです。例えば、『予算を引き上げてでも理想の間取りを優先する』のか、それとも『予算は変えず、エリアを広げて探す』のかという選択になった場合、お二人はどちらの考えに近いでしょうか」

    解説:このような質問を投げかけると顔を見合わせて笑う、あるいは「ウチは妻の希望どおりになりますね」「主人は財布の紐が固いので」など、本音が自然とこぼれ出ることがあります。

    このような何気ないやり取りの中に、日常的な意思決定プロセスや家庭内の役割分担が表れることは少なくありません。

    B.論理派に「大義名分」を与えるトーク

    感情派が物件を気に入り、論理派が腕を組んで渋い顔をしている局面では、次のようなトークが有効です。

    「奥様がこれだけ気に入る物件には、そう何度も巡り会えるものではありません。一方でご主人としては、奥様の希望を叶えてあげたいお気持ちがある反面、資金計画や将来的な資産価値を考えると、『本当にこの物件で良いのだろうか』と慎重になられても当然だと思います。そこで、私から客観的なデータを提示いたしますので、ご主人のお立場からご判断いただければと思います」

    解説:論理派の「冷静に見極めたい」というプライドを肯定しながら、その役割を単なる反対者ではなく、『家族のために最終確認を担う存在』へと昇華させます。

    これにより、論理派が感情的に否定するのではなく、客観的に検討するという役割に意識を切り替え、前向きな意識で検討に加わってくれるようになるのです。

    これらのトークスクリプトは、数ある実践的話法の一例に過ぎません。

    重要なのは、いち早く実質的意思決定者を見抜くことだけではなく、顧客が「どのような認知プロセスを経て、何を判断材料とし、誰の言葉を信頼しているのか」を科学的な視点から観察することです。

    多くの営業は、これを感覚(営業センス)や経験の積み重ねによって身につくものだと捉えがちですが、人間の意思決定プロセスには、行動経済学や認知心理学によって一定程度説明できる法則性が存在することも事実です。

    もっとも、こうした観察結果は、あくまでも営業担当者が立てる「仮説」に過ぎません。だからこそ決めつけるのではなく、対話を重ねながら仮説を検証し続ける姿勢が重要になるのです。

    一見非合理にさえ見える不動産購入という決断を、スムーズに、そして誠実にサポートするためには、科学的な知見に基づく適切なアプローチは不可欠と言っても過言ではないでしょう。

    不動産営業は、単に物件を取引するだけの仕事ではありません。顧客一人ひとりが持つ価値観や家族関係、そして意思決定の背景を理解したうえで、時には背中を押しながら、その意思決定を支援する仕事です。

    実質的意思決定者を見極めることは、売上を上げるために誰か一人を攻略する営業技術ではなく、家族全員が納得できる意思決定へ導くための第一歩となるのです。

    まとめ

    不動産営業において何より重要なのは、「誰が意思決定を方向付けているか」を見極めることです。

    それによって、実質的意思決定者が何を不安に感じているかを速やかに推し量り、適切なアプローチにつなげることで、成約率の向上が期待できます。

    本稿で解説してきたように、実質的意思決定者を見抜くには、言葉だけではなく、視線や反応、会話の流れといった非言語的な情報を含めて観察し、仮説を立て、対話を通じて検証し続ける姿勢が欠かせません。

    これが、一流の営業になるためには相応の経験が必要と言われる所以です。

    しかし、行動経済学や認知心理学を学ぶことで、必要とされる経験年数を大きく短縮し、顧客理解や観察精度を高めることは十分に可能です。

    「習うより慣れろ」という考えが根強い不動産業界だからこそ、経験に科学的なアプローチを組み合わせれば、より再現性の高い営業力を身に着けることができるのです。

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    監修者情報

    H.L.C不動産コンサルティング 奥林洋樹
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