【性能競争から付加価値競争へ】媒介業者に求められる新たな対応力

媒介業者は、現在の市場動向のみならず、将来的な市場の動きについても先読みし、常に備えておく必要があります。
例えば、実勢価格だけではなく、公示価格や路線価など、いわゆる「一物四価」の動向についても注視し、再開発、大規模工場の誘致、移住者の増加など、その背景を調査して検証する姿勢が重要です。
また、住宅ローンの金利動向や税制優遇制度の改正などについても、それにより想定される影響も含め、常に最新の情報を把握しておく必要があります。
加えて、新築住宅、とりわけ注文住宅のトレンドについては正確に理解しておく必要があるでしょう。
なぜなら、現在供給されている注文住宅が、将来的には既存住宅市場へ流通することになるからです。
近年、注文住宅市場は、資材価格や建築費、土地価格の上昇を背景に縮小傾向が続き、着工数の減少傾向は顕著となっています。

国土交通省の「令和7年度住宅経済関連データ」をみても明らかで、省エネ基準適合義務化前の駆け込み着工が見られるものの、結果的に2025年の新設着工件数は74万戸に留まり、1963年以降で最低水準を記録したのです。
このような状況が、今後大幅に改善するとの見通しは、現時点では立っていません。
そのため、大手ハウスメーカーをはじめ各社では、受注件数の拡大のみを追求するのではなく、1件あたりの収益性を高めるとともに、「資産性」「快適性」「換価性」などを重視した、高付加価値の提案へと軸足を移しているのです。
例えば、「広さ、快適、安心」をコンセプトに掲げる大和ハウス工業では、標準仕様で天井高2.72m(一般的な住宅は2.4m程度)を実現するとともに、ZEH水準を上回る断熱性能(断熱等級6)を採用して、空間のゆとりと高い省エネ性能を両立させることで差別化を図っています。

一方、積水ハウスでは、吹き抜けの提案や大開口窓を積極的に提案するとともに、光の入り方や植栽による木漏れ日まで考慮した空間設計を通じて、居心地の良さや豊かな暮らしを提供するとしています。

また、ミサワホームでは、生活段階での二酸化炭素排出量収支をゼロにするだけではなく、建設時から居住、解体、廃棄に至る住宅ライフサイクル全体で二酸化炭素排出量をマイナスにする、「ライフサイクルCO2マイナス住宅」をフラッグシップモデルと位置付けています。

このように、例に挙げた大手ハウスメーカーに限らず、地域の工務店も含めて各社は、それぞれ独自のコンセプトを掲げながら、独自性の確立に取り組んでいるのです。
現在、すでに省エネ基準への適合が義務付けられていますが、政府は2030年度までに、新築住宅の省エネ性能をZEH水準まで引き上げる方針です。
こうした制度改正によって、省エネ性能や耐震性能が一定水準を満たすことがそもそもの要件とされるのですから、性能面だけで競争優位性を築くことが、年々難しくなっています。
加えて、資材価格や人件費の高騰により建築費は上がり、さらには都市部や利便性の高いエリアにおいては土地価格も高止まりしています。
また、消費者ニーズの多様化や少子高齢化が顕在化するなど、住宅メーカー単独では解決の難しい問題が山積しているのが、現在の市場です。
こうした厳しい市場環境は、当面の間、劇的に好転することはなく、むしろより悪化する可能性の方が高いと考えられています。
そのため各社では、海外市場での展開やリフォーム・リノベーション事業を重視するなど、経営基盤の強化に向けて積極的に取り組んでいるのです。
とはいえ、国内市場への取り組みを怠ることはできません。そのため各社が一層注力しているのが、他社との差別化です。
しかし、先述したように、省エネ性能や耐震性能だけでは競争の優位性を築くことは難しい時代です。
そのため各社は、空間提案や暮らし方、環境性能、将来的な資産価値など、住宅そのものが持つ付加価値を高める方向へと舵を切っているのです。
将来的には、このような各社の差別化戦略が具現化された住宅が既存住宅市場へ流通することになります。
そうした住宅は、設計思想や空間提案、環境性能、さらには資産性まで含めて評価しなければ、市場で適正な評価を得ることはできません。
そもそも、特徴を理解していなければ、適正な査定や販売戦略を立案すること自体が困難です。
加えて、住宅を建築したメーカー自身が、自社施工物件の媒介業務に注力し始めている現状を看過してはなりません。
自社施工住宅について、最も深い知識を有する事業者がこれまで以上に既存住宅市場へ参入すれば、私たち媒介業者は、従来以上の専門知識と提案力を備える必要に迫られます。
本稿では、性能面だけでは差別化を図ることが難しくなった時代、ハウスメーカー各社がどのような住宅を提案しているのかを検証していきたいと思います。
ハウスメーカーは何を差別化しているのか
2025年4月から省エネ基準への適合が義務化され、さらに政府は、2030年度までに新築住宅の省エネ性能をZEH水準まで引き上げる方針を示しています。
この流れは、住宅業界にとって大きな転換点といえるでしょう。
もっともこの影響を強く受けるのは、断熱性能や耐震性能を最低限に抑え、大量仕入れと施工の標準化で建築価格を引き下げた、いわゆるローコストメーカーではないでしょうか。
従来、ローコスト住宅は必要最低限の性能を確保しながら建築コストを抑えることで、価格競争力を維持してきたからです。
もちろん、全てのローコストメーカーに当てはまるわけではないものの、少なからぬローコストメーカーが省エネ基準の義務化によって、断熱材のランクアップ、高性能サッシの採用、高効率な省エネ設備の導入など、大幅な仕様変更を余儀なくされました。
その結果、建築単価を引き上げざるを得なくなったのです。
これでは、低価格を最大の競争力としていたメーカーは従来の競争優位性を維持することが難しくなります。
もっとも、大手のローコストメーカーであれば変化に対応する「資本力」や「開発力」を有していますから、対応できる可能性は高いと思われます。
しかし、その一方で仕様変更に伴うコスト上昇分を価格転嫁できない地域の中小工務店は、厳しい経営判断を迫られる可能性があります。
実際、その厳しい経営環境は倒産件数にも表れています。
帝国データバンクは、2025年に発生した建設業の倒産件数を2,021件と公表しています。2,000件を超えたのは、2014年以来12年振りです。
倒産企業が皆、ローコスト住宅の建築に関与しているわけではありませんが、物価高、後継者難、人手不足を倒産要因に挙げている割合が高く、さらに、従業者10人未満の事業者が多くを占めている点は見逃せません。
総体的な受注件数の減少、建築資材価格の高騰、人件費の上昇という三重苦のなかで、住宅メーカー各社は価格競争だけでは生き残れない時代を迎えています。
だからこそ近年は、「いかに安く建てるか」のみならず、「快適性」「資産性」「環境性能」「空間提案」といった付加価値の創出へと競争の軸を移しているのです。
では実際に、各ハウスメーカーはどのような付加価値によって住宅を差別化しているのでしょうか。
次章では、大手ハウスメーカー各社の具体的な取り組みを通じて、差別化戦略の要諦を検証していきます。
空間価値という新たな差別化戦略
否応なしに住宅性能の底上げが進み、もはや性能面だけでは差別化を図りにくくなった現在、各ハウスメーカーが最も注力しているのが「空間提案」です。
つまり、数値化できる性能面から、言語化しにくい『心地よさ』へシフトしているということです。
この説明だけではあまりにも抽象的ですから、具体例を交えながら補足します。
例えば天井高です。
先述したように、一般的な住宅の室内天井高は2.4m(2,400mm)程度です。
これは、建築基準法施行令第21条で居室の天井高が2.1m以上でなければならないとされているからでもありますが、実務的には日本の木造住宅が尺モジュール(910mm)で設計されることが多いため、流通する標準的な建材もこのモジュールに合わせて製造されているからです。
壁下地材の基本寸法は「3✕8(さんぱち)」、つまりは910mm✕2,420mmのサイズですから、天井高が2,400mmであれば、ほとんどロスを発生させず壁に貼ることができます。
ですが、大和ハウスのように天井高を2,720mmにすれば、ロングサイズ(9尺サイズ:2,730mm等)の石膏ボードや合板を一発で貼る、もしくは「3×8板(2,420mm)+ 3×6板の端切れ(300mm)」を継ぎ足して貼るといった対応が必要となります。
もちろんその影響は構造材、クロス、壁材などにも波及します。
使用する部材の総量が増えれば、当然に建築価格も上がります。
さらに、天井高を引き上げる、あるいは吹き抜けを設けた場合には、建築費が増えるだけではなく冷暖房効率の低下に伴うランニングコストの増加を抑制するための対処や構造上の強度確保など、設計・施工のハードルも同時に押し上げます。

このようなコストアップが伴うにもかかわらず、各ハウスメーカーが天井高や吹き抜け、大開口窓の提案など空間設計にこだわるのは、コストの上昇を上回る「体験価値」を提示できなければ、これからの市場で生き残れないと判断したからではないでしょうか。
つまり、現在の顧客が求めているのは、「高気密・高断熱」というスペックのみならず、「その家でどのような時間を過ごせるか」という情緒的な価値観であると、各ハウスメーカーが判断した結果なのでしょう。
そして、この「言語化しにくい価値観」とは、天井高や大開口の実現によってもたらされる広がり、あるいは窓から見える景観など視覚的・体感的な「空間価値」の具現化です。
しかし、この空間価値の創出には相応のコストが必要となります。
住宅金融支援機構が毎年実施している『フラット35利用者調査』によれば、直近(2024年)の所要資金平均は、土地付き注文住宅で5,007万円、建物単体で3,936万円とされています。

さらに、利便性の良い高額な土地を購入すれば、当然に総額も跳ねあがります。
自己資金が潤沢であれば良いのでしょうが、現実には融資金の額が増加している傾向が見受けられます。

このように、住宅取得コストが過去最高水準に達している現在、顧客の予算感は限界まで押し上げられているのです。
そして、これほどまでの高額な債務を背負う顧客は、従来の「頑丈で暖かい家」では納得せず、さらなる付加価値を求めています。
したがって、そのようなこだわりを持った物件所有者の多くは、自身の持家を売却する際「こだわり」が査定額に正しく反映されているかを重視するのです。
そのような売主に対して私たち媒介業者は、スペックの適正評価はもとより、具現化された「こだわり」を査定額に正しく反映した査定書を提示しなければなりません。
このような業務は、ハウスメーカーの直営、あるいは系列の媒介業者が得意とするところですから、私たちはそれ以上の査定書を作成できなければ売主から選ばれなくなる可能性が高まります。
さらに、購入者に対して「なぜ割高なのか」を、設計図面や冷暖房費を始めとする具体的な資料をもとに説明することが求められます。
加えて、「この空間だからこそ得られる豊かな暮らし」という体験価値を、購入検討者のライフスタイルに重ね合わせて提案できるかも重要です。
つまり、これから訪れる高価格帯既存住宅市場で勝ち抜くためには、媒介業者自身にも差別化戦略が必須となるのです。
資産価値を見極める時代へ
これまで見てきたように、ハウスメーカー各社は住宅性能だけでは差別化が難しくなった市場環境の中で、空間提案や環境性能、さらには暮らし方そのものを提案することで独自性を打ち出しています。
そして、こうした付加価値を備えた注文住宅はいずれ既存住宅市場で流通することになります。
一般的に、たとえ価格が高額であっても分譲マンションの査定は、戸建住宅と比較すれば比較的容易です。
皆様ならご存じのとおり、条件が似通った成約事例を参考に、専有面積や階数、室内状況、流動性を検討すれば算出できるからです。
さらに、査定システムを利用すれば必要事項を入力するだけで一定水準の査定価格を算出できますから、査定価格に大きな差が生じにくいという特徴があります。
一方で、戸建住宅、なかでも物件所有者の「こだわり」が凝縮された注文住宅は、査定難易度が一気に高まります。
築年数や床面積、立地条件といった従来型の査定項目だけでは、その住宅が持つ本来の価値を十分に評価できないからです。
さらに、「どの部分をどのように評価して査定額に反映したのか」という根拠を、設計思想や採光計画、断熱性能、メンテナンス性、将来的な資産性など多面的な視点から分析したうえで、物件所有者のみならず購入検討者に対しても分かりやすく説明する能力が求められます。

言い換えれば、注文住宅の査定は、単に価格を算出する作業だけでは成立しません。
これは、住宅に込められた価値を言語化し、市場へ伝える役割を伴うからです。
こうした言語化できない物件固有の価値は、査定システムと必ずしも相性が良いとはいえません。
もちろん、システムを利用すれば一定の査定価格は算出されます。
しかし、その査定書を物件所有者に提示しても、適正な評価を行い、かつ理路整然と算定根拠について説明を行った媒介業者に競り勝つのは、極めて困難でしょう。
つまり、これからの媒介業者は、「価格を示すだけの査定」ではなく「価値を説明できる査定」によって、差別化を図る必要があるのです。
具体的に求められるのは、住宅の価値を総体的に読み解く力です。
この「力」とは、建築や設備、設計思想、さらには各ハウスメーカーの差別化戦略まで含めた理解を深め、住宅が持つ価値を適切に査定額へ反映するとともに、その価値を購入検討者へ分かりやすく伝える力を指します。
もっとも、その力を高めるには建築や設計思想に関する座学が必要不可欠ではあるものの、日々多忙な皆様が一から学ぶのは困難です。
そこで筆者は、来客の多い土日を避けた平日に住宅展示場巡りを行い、ハウスメーカー各社のこだわりや設計思想、さらには建築された現物を見て回ることをお勧めします。
媒介営業の中には時折、「住宅展示場巡りをするのは迷惑ではないか」「内見を断られるのではないか」と心配する方を見かけますが、ハウスメーカー各社にとって媒介業者は競合相手ではありません。
むしろ、土地取引で協力することもあり、さらには紹介を得られる可能性もある存在なのですから、内見を断られる可能性は低いでしょう。
むしろ、自社住宅の特徴や設計思想について積極的に説明してくれることに期待できます。

既存住宅市場は今後、「性能や立地など目に見えることだけを評価する時代」から「住宅が持つ本質的な価値を評価する時代」へと移行していくでしょう。
購入検討者もすでに、このような時代の変化をSNSやインターネットを通じて敏感に感じ取っています。
下手をすれば媒介業者より顧客の方が豊富な知識を有している場合すらあるのです。
このような市場の変化を正確に理解したうえで、住宅の価値を正しく見極め、それを言語化して市場へ伝えられる媒介業者だけが、これからの既存住宅市場で物件所有者や購入検討者から選ばれる存在となるのではないでしょうか。
まとめ
インターネットの普及によって、ハウスメーカー各社の住宅性能や特徴なども容易に調べられる時代となりました。その結果、媒介業者だけが情報を持つ時代は終わりを迎えつつあります。
もっとも、従来の媒介業者がハウスメーカー各社の特徴や設計思想について正確に理解していたかといえば、必ずしもそうではありません。
販売資料に「〇〇ホーム施工」と記載するだけで顧客が安心と感じてくれる傾向があったため、性能面や特徴を細かく説明する必要がそれほどなかったからです。
しかし、情報収集が容易となった現在では、情報を正しく理解したうえで、それを分かりやすく説明する能力が不可欠となっています。
そして、情報量が増えたからこそ、その住宅が持つ本質的な価値を正しく読み解き、それを査定価格へ反映するとともに、購入検討者へ分かりやすく伝える能力が求められているのです。
このような時代変化に呼応するように、現在の査定実務は単に価格を算出する作業ではなくなりつつあります。
住宅に込められた価値を適切に見極め、正確に市場へ伝えることが求められるからです。
これは、不動産取引のプロフェッショナルである媒介業者だからこそ成し得る、専門的な業務といっても過言ではありません。
これからの既存住宅市場において物件所有者や購入検討者から選ばれるのは、おそらく単に人当たりがよく交渉力があるといった従来型の媒介業者ではなく、住宅の本質的な価値を見極め、それを的確に言語化して伝えられるプロフェッショナルなのでしょう。
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