【生成AIが物件選びを変える?】2026年「住宅居住白書」から読み解く不動産営業の在り方

9月23日は「不動産の日」です。
不動産の日は、1984(昭和59)年に公益社団法人・全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連)が定めました。
この日を「不動産の日」と定めた理由は、秋に不動産の取引量が増加すること、さらには「ふ(2)・どう(10【二桁の『10』を『十』とみなす】)・3(さん)」という語呂合わせによるものとされています。
制定された経緯はともかく、毎年9月23日やその前後には、全宅連を筆頭として「不動産の日」にちなんだイベントやキャンペーンなどが行われているのは、不動産業界に従事されている皆さんならご存じのとおりです。
そのなかでも、毎年筆者が心待ちにしているのは、住まいに関する定点・意識調査の結果を全宅連がまとめた「住宅居住白書」の公開です。
単年の結果に留まらず、時代の趨勢やそれによる消費者意識の変化が確認できるため、筆者は毎年公開された情報を比較検討することを、楽しみの一つにしています。
ちなみに、過去の住宅居住白書については、全宅連のホームページで、2008年まで遡って公開されています。
アンケート調査は毎年、全国に居住する20歳から65歳の男女5,000名を対象として実施されていますが、設問の内容は少しずつ変化しています。
2026年の調査で注目されるのは、新たに追加された「住まい探しにおける生成AIの活用調査」です。
ご存じのとおり、現在生成AIは仕事の道具にとどまらず、一般生活者の検索行動、情報収集、学習、創造的趣味、購買に関する意思決定など、さまざまな場面で活用される存在になりつつあります。
従来は、Googleなどによるキーワード検索によって選出された複数サイトを自ら開き、確認するのが一般的だったと推察されます。
一方、生成AIが普及した現在では、複数の情報を自ら比較検討することに加え、より手軽に質問して要約や必要な情報を直接得る形へ移行が進んでいると考えられるのです。
こうした生成AIの利用は、旅行プランの作成、家電や日用品の比較検討、献立の考案といった日常行動のみならず、健康上の不安について調べたり、さらには法律上のトラブルが生じた際に、どのような対応を検討すべきかを調べたりといった、さまざまな判断材料を求める場面にも広がっているのです。
実際に多くの消費者が、不動産の購入や賃貸について、どのエリアが最適解となり得るか、将来的な資産性の上昇は期待できるのかといった取引の意思決定を大きく左右し得る問いを、生成AIに投げかけている可能性があるのです。
それを示す具体的なデータについては後ほど紹介しますが、もはや生成AIは、不動産取引に関する意思決定のプロセスを変化させつつあるとさえ言えるのではないでしょうか。
それだけに、今回の「住宅居住白書」の結果は、不動産実務者にとっても興味深い内容です。
本稿では、住宅居住白書の結果を紹介するとともに、そこから見えてくる住まい探しにおける情報収集の変化、そして意思決定プロセスの変化について皆さんと考えていきたいと思います。
もはや多数派? 「住まい探しで生成AIを使う人の割合」
本章ではまず、実際の住まい探しにおいて生成AIを利用している方が、どの程度存在しているのかを「住宅居住白書」の回答結果から見ていきましょう。
設問は、住まい探しや物件の比較・検討における生成AIの活用有無、さらにはどのように活用したのかを質問したものでした。

意外なことに、「生成AIを使ったことはなく、今後も利用するつもりもない」と回答した方が27.5%と、最多を占めたのです。
もっとも、次に「生成AIを利用したことはないが、今後活用してみたい」が14.2%と続き、さらには「希望エリアの地域情報の収集・比較」「不動産や契約に関する専門用語の解説・意味調べ」など、従来は不動産会社の担当者に質問していた内容が続いているのですから、「生成AIを使ったことはなく、今後も利用するつもりもない」との回答が最多だったからといって、「生成AIは思ったほど利用されていない」と単純に捉えてはなりません。
むしろ、顧客に物件を紹介したり、契約や専門用語について説明をしたりした際、「生成AIの回答と違う」と不信感を抱かれる可能性があることを、私たちは認識しておく必要があるのです。
生成AIは、Web上の膨大な情報をもとに学習・推論している一方で、不動産取引は地域ごとの慣習や個別の契約条件、最新の法改正といった「不動産取引ならではの個別性やリアルタイム性」を正確に把握しきれない側面があります。
その結果、古い情報や海外の事例を混同したり、存在しない法律や周辺施設、設備仕様などをもっともらしく生成したりするリスク(ハルシネーション)を常に抱えています。
それだけに、専門知識を持たない顧客は「生成AIの回答が間違っているのか、あるいは担当者の説明が間違っているのか」を客観的に判断することが困難なのです。
判断に迷った結果、「AIと違うことを言う担当者」に対して不信感を募らせてしまうおそれがあるのです。
その点を踏まえたうえで、次に「希望エリアの地域情報の収集・比較」などについて生成AIを活用した年齢層について理解を深める必要があります。

予想どおりとさえ言えますが、住まいを探す際の生成AI活用率は年代が低いほど高く、20代では53.4%にまで達しているのです。
国土交通省の「住宅市場動向調査」を紐解くと、新築か中古か、さらには戸建かマンションかで購入時年齢に変化が見受けられるものの、いずれの住宅形態でも30代後半から40代後半にかけてがボリュームゾーンであることが分かります。
もちろん、これらの情報だけを根拠に20代の生成AI活用が賃貸物件を中心としているとまでは断定できません。
さらにこの世代は、今後の住宅購入市場を構成する重要な顧客層でもあります。
つまり、賃貸・売買を問わず今後、不動産取引を行う顧客の生成AIを活用する割合が高まっていく可能性は十分にあると、私たちは理解しておく必要があるのです。
このような推論に基づけば、顧客が不動産会社に相談する前、あるいは取引を行うか否かを判断する際には生成AIを活用して、一定の情報収集・比較・仮説形成を済ませるようになることが予想されます。
このような行動変化に際して、私たちはどのように対応していけば良いのでしょうか。
次章では、このような意思決定プロセスの変化に対応するためにはどうすれば良いのかを検証したいと思います。
生成AIがどのように活用されているのかを知る
前章では、住まい探しにおける生成AIの活用状況と年代別の特徴、さらにはその結果予想される意思決定プロセスの変化について確認しました。
孫氏が残した「彼を知り己を知れば百戦殆からず(かれをしりおのれをしればひゃくせんあやうからず)」との言葉はよく知られています。

ですが、この言葉に続いて、「敵のことを知らなくても自分(味方)のことを分かっている場合、勝敗は五分であり、敵も自分も分かっていなければ、ほぼ負ける」という趣旨の言葉が続いていることは、あまり知られていないようです。

もちろん、不動産実務は「戦さ」ではありません。
しかし、顧客から選ばれ、さらには取引を成立させなければ収入につながらないという意味では、それに近い競争環境に置かれていることは間違いありません。
「戦略」「戦術」「ロジスティック(兵站)」「ターゲット」といった軍事用語が、そのまま経営やマーケティングの現場で使われていることも、その証左と言えるでしょう。
それだけに、これからの不動産営業を考えるうえで「生成AIという存在が、顧客の住まい探しにおいてどのように活用されているのか」を、まずは知っておく必要があります。
住まい探しにおける生成AIの活用と聞けば、希望条件を入力して物件を探したり、条件に合う物件を提案してもらったりすることが念頭に浮かびがちですが、「住宅居住白書」の調査結果を見る限り、現時点では必ずしもそのような使い方がされてはいないようです。

まず、生成AIを利用したことがある方に限って質問した利用目的においては、「希望エリアの地域情報の収集・比較」が33.5%ともっとも高く、物件ではなくエリア情報を質問しているのです。
次いで「不動産や契約に関する専門用語の解説・意味調べ」が28.4%と続き、「物件情報のメリット・デメリットの整理・比較」は27.6%と三番目に位置しています。
つまり、生成AIは現時点において、物件そのものを探すためではなく、住まい探しに必要な情報を集め、それを理解し、比較するための道具として活用されているのです。
これは、例えば「〇〇市〇〇区、価格2000万円以内、70㎡以上、築後30年以内の売りマンション情報をすべて探してほしい」と入力したとしても、リアルタイムの売出し物件は日々更新・成約されているため、該当物件の有無や個別の詳細について情報を得ることには限界があります。
これは生成AIが物件検索に適していないという意味ではなく、現在の不動産市場における物件情報の更新頻度や個別性を考えると、ポータルサイトなどの専門サービスに比べて不利な面があるためだと考えられます。
また、SUUMOなどのポータルサイトを利用すれば、条件を指定して物件情報を検索できるため、あえて生成AIを活用しようとは思わないのかもしれません。
つまり、生成AIは現時点において、物件を探すための検索システムではなく、「住まい探しについて考えるための情報整理ツール」として利用されていると考えられるのです。
この視点が重要だと、筆者は思っています。
つまり、従来であれば希望エリアを決定する際には物件以外の情報、たとえば買物至便性や防犯面、ハザードマップ、将来的な資産性などについてはインターネットで一つひとつ検索したり、不動産会社の担当者へ質問をしたりする必要がありました。
ですが、生成AIを利用すれば複数の疑問を一度に質問して回答を得たうえで、さらに追加で質問を重ねることができます。
このような作業を事前に行っている顧客は、不動産会社へ相談する前の段階で、地域の特徴や不動産用語、税務関連、物件のメリット・デメリットなどについて一定の知識を得ている可能性があるのです。
そのような顧客に対して不利益な地域情報を開示せず、メリットばかりを強調して説明すれば、不誠実な担当者と判断される可能性があるでしょう。
そもそも、これまでの不動産営業では「この地域はどのような場所なのか」「提案した物件のメリットは何か」「専門用語は何を意味するのか」といった質問に対して担当者が答えること自体に、大きな価値がありました。
もちろん、地域密着で培われた知見がそう簡単に生成AIに代替できるとは筆者も考えていません。
しかし、顧客自身が生成AIを使って事前に情報を収集し、比較し、さらには自分なりの仮説まで形成したうえで不動産会社へ問い合わせをしてくるようになれば、担当者に求められる役割はすくなからず変化せざるを得ません。
しかも、顧客が事前に情報を収集しているということは、営業担当者にとって不都合な情報や、これまでであれば顧客が知る機会の少なかった情報を、顧客が知ったうえで相談に訪れる可能性があるのです。
例えば、希望エリアについて「治安に不安がある」場合には、生成AIに地域の犯罪統計の推移を質問している可能性があります。
また、「災害リスクについて不安がある」場合には、洪水や内水氾濫リスクのみならず地震防災情報、具体的には震度分布や揺れやすさ、液状化の可能性などを生成AIに質問して、自分なりに調べている可能性があります。
そのような顧客に対し、理解に欠けた状態で説明をすれば、どのような印象を持たれるかは解説するまでもないでしょう。
とはいえ、どれだけ努力を重ねても、私たちが有する知識や情報には限界があります。
だからこそ、顧客がすでに把握している情報については、それを前提として、専門家としての見解を加えることこそが、生成AIの普及した時代における不動産営業の役割だと筆者は考えています。
また、先述したように生成AIは、現時点において存在しない法律や周辺施設、設備仕様などをもっともらしく生成してしまうリスク(ハルシネーション)を常に抱えています。
さらに、顧客の理解度にも隔たりがあります。
それだけに、顧客が生成AIから得た情報をただ否定するのではなく、「その情報は何を根拠としているのか」「実際の取引ではどうなのか」「購入を検討する物件について、さらに確認する事項があるとすれば何なのか」といったことを、専門家として整理し、現実の取引に落とし込むことが重要となるのです。
今後、住まいを探す際に生成AIを活用する方の割合は、増加していくと予想されます。
それだけに、不動産営業担当者は「単に知識を持っていること」から「情報の正確性を判断し、個別の不動産に当てはめ、顧客の意思決定を支援できること」へと、業務そのものを見直す必要があると考えられるのです。
誤解を受けないようあえて申しあげますが、正確性を判断するためには営業担当者が正確な知識を有している必要があります。顧客から質問されて、その都度、スマートフォンで検索しているようでは信頼も得られません。
顧客が来店前に理論武装しているのなら、私たちにはそれを上回るほどの正確かつ豊富な知見が必要とされるのです。
とはいえ、「上回る」との表現をしたからといって、顧客より多くの情報を暗記すれば良いのだと短絡的に考えてはなりません。
顧客が生成AIによって得た情報の中から、何が正しく、何に注意が必要で、何を追加で確認すべきなのかを判断し、その情報を具体的な物件や取引条件に当てはめて説明するための知見が必要だからです。
それでは、顧客が生成AIを使って事前に情報を取得したうえで不動産会社を訪れた場合、担当者は具体的にどのような対応をすべきなのでしょうか。
次章では、顧客から「生成AIではこう説明されました」と言われた場面を想定しながら、これからの不動産営業に求められる説明力について考えてみたいと思います。
「生成AIはこう回答した」と言われたら
前章では、生成AIの普及によって、顧客が不動産会社へ相談する前に、地域情報や不動産に関する知識や情報を収集し、自分なりの仮説を形成したうえで来店する可能性について考えました。
では、実際の営業現場で、顧客から「この地域は将来的に不動産価格が上昇する可能性が極めて高いと生成AIに回答されたため、この地域限定で物件を探したいと考えています」と相談された場合、私たちはどのように対応すれば良いのでしょうか。
もちろん、「そうですか、それではこちらの物件などいかがでしょうか」と、希望条件に合致する物件を紹介しても、それ自体は何ら問題ありません。
むしろ、「生成AIの回答は間違っています。なぜなら……」と否定したほうが、リスクは高いとさえ言えるでしょう。
もちろん、生成AIの回答に明らかな誤りが存在している場合には、それを指摘することは必要です。
しかし、私たちの仕事は闇雲に生成AIの回答を否定することではありません。
顧客が希望した条件を満たす物件を紹介すると同時に、複雑な法律手続きや専門用語が多い不動産取引を円滑に行うことこそが責務なのです。
したがって、顧客が将来的な不動産の値上がり、つまりは資産性を重視しているのなら、専門的な市場データや不動産価格の変動要件、たとえば人口動態やインフラ整備の計画・実施状況、大規模店舗誘致の可能性などを検討したうえで、実際に価格が上昇する可能性がどの程度あるのかを、説明する必要があるのです。
その際には、価格上昇のポジティブな要因だけではなく、金利動向や建築資材の高騰、将来における供給過剰リスクなどのネガティブ要素も、専門家として正しく提示する必要があるでしょう。
そもそも生成AIの回答は、利用するサービスの環境や参照される情報、生成の仕組みが異なるため、「ローカルな最新計画」や「個別の法的規制・市場実態」までを十分に反映できていない可能性があります。
だからこそ頭ごなしに否定するのではなく、生成AIの回答に具体性があるのかを検証する作業を行うことで、顧客の納得感を高め、強固な信頼関係を築ける可能性が高まるのです。
多くの不動産会社は「物件の仲介(マッチング)」を主業務としてインセンティブを組んでいます。
これ自体は従来からの手法を踏襲したものであり、否定されるものではありません。
ですが、その影響で「顧客の仮説をデータで多角的に検証する」という一手間を敬遠する土壌が、形成されていると言えるのです。
この作業は短絡的に見れば営業効率を下げると捉えがちなため、組織的にこのアプローチを標準化できている企業は、筆者の知る限りごく僅かです。
しかし、今後さらに顧客による生成AIの活用が高まると仮定した場合、従来どおりの営業手法に執着すれば、いずれ淘汰される可能性があります。
私たちは、変化しなければならないのです。
それだけに、今後は次のような説明をできる営業が実績を挙げ続けていくことができると考えられるのです。
「ご希望の条件やエリア選択は、〇〇という前提に基づいているように思いますが、〇〇という点についてはどのようにお考えでしょうか。例えば……」
「お客様が指摘された法律は、現行法では確かにそのように解釈・運用される問題を内包しています。ですが、有識者会議が組織されるなど、法改正に向けての動きが見受けられることはご存ででしょうか」
「マンションの資産性を検討するうえで、確かに築年数は重要な要素の一つではあります。しかし、複数の公的機関や学術団体による科学分析や実態調査によれば、マンションは100年以上持つとの見解も示されています。もっとも、それは大規模修繕などが適切に実施されている場合に限られます。それだけに、築年数のみならず管理や修繕状況などにも目を向けられてはいかがでしょうか」
これらの説明は、いずれも顧客の認識を否定するのではなく、質問や希望条件の内容を正確に理解したうえで一旦は受け入れ、そのうえで正しく判断が行えるように補完することを目的としています。
単に知識を持っているだけではこのような説明は行えません。
なぜ生成AIの回答とは異なるのか、どのような情報を確認すれば良いのか、最終的に顧客自身がどのように判断すべきなのかを示す、いわば「羅針盤」としての役割を意識して説明をしなければならないからです。
生成AIの普及によって情報格差が縮小している時代、不動産営業担当に求められる価値は情報を一方的に与えることではありません。
情報を整理し、検証し、判断材料として提供することこそが重要となるのです。
つまり、不動産営業が身につけるべきは、「新たな説明力」だとさえ言えるのです。
2026年住宅居住白書から見えてくるもの
ここまで2026年住宅居住白書で新たに設けられた「住まい探しにおける生成AIの活用調査」を中心に、これからの不動産営業について考えてきました。
しかし、今回の住宅居住白書で注目すべきなのは、生成AIに関する調査だけではありません。
住宅居住白書では、住宅の買い時・住み替えのポイントに関する調査を始めとして、全19問の質問がなされています。
その中から、筆者が特に不動産営業に注目してほしい結果をいくつか紹介したいと思います。
まず、「いま、不動産は買い時だと思いますか」という質問と、その理由です。

今回の調査では、「買い時だと思う」が21.6%と、前年の20.8%から0.8ポイント増加していますが、「買い時だとは思わない」も37.7%と、前年から3.0ポイント増加しました。
そこで、2015年から2026年までの12年間の変化に目を向けると、「買い時だと思う」は2022年の6.4%を起点に4年連続して上昇している一方、「買い時だとは思わない」は2023年の37%から2年連続低下したものの、2026年には再び増加へ転じ、過去12年間で最も高い数字を記録しています。
さらに、「買い時だと思う」「買い時だとは思わない」、それぞれの理由に着目してみましょう。

「買い時だとは思わない」理由のトップは、2026年と2025年の調査では「価格が高騰しすぎて手が届かないから」でしたが、公開されている2008年からの調査結果を見ていくと、2024年までの17年間、「買い時だとは思わない」と考える理由の上位(1位か2位)に、「不動産価値(価格)が下落しそうだから」が挙げられています。
これらの変化から、消費者の懸念が「将来の値下がり不安」から、「物件価格の高騰による購買能力の限界」へシフトしたとも考えられるのです。
このような消費者意識の変化を目の当たりにして筆者は、これからの不動産営業は不動産の資産性を訴求するだけではなく、高騰期における最適なローン設計や購入時期の提案など、消費者の資金面により寄り添った、具体的なサポートが必要だと考えるのです。
この仮定を裏付けるため、次に「持家派」と「賃貸派」の理由を見ていきましょう。

「賃貸派の理由」第1位は「住宅ローンに縛られたくないから(35.8%)」で、「税金や維持管理コストがかかるから(31.4%)」へ続きます。
このうち「住宅ローンに縛られたくないから」との回答は、過去の調査結果でも常に上位となっています。
一方の「持家派」の理由は過去の調査結果を含め、常に「家賃を払い続けることが無駄に思えるから」が上位を占めています。
短絡的に考えれば、持家派は「資産形成」、賃貸派は「リスク回避」という異なる思想を持っているため、両者は平行線をたどっているように思えるかもしれません。
そのため、不動産営業の中には、「賃貸派に持家を提案」「持家派に賃貸を提案」すること自体、無駄と考えてしまう傾向が見受けられるのです。
しかし、賃貸派が抱いている「住宅ローンに縛られたくない」という心理の根底には、価格高騰期における返済不安や、人生の変化に対応できなくなることへの「恐怖」が存在している可能性があります。
つまり、「可能であれば購入したい」という意思が隠れているのかもしれないのです。
不動産市場の二極化、空家の増加、少子高齢化、取引件数の減少、宅地建物取引業者の増加など、不動産業者にとってのネガティブ要素は数多くあります。
だからこそ、「縛られたくない」と考える顧客に対しては、万が一の際に売却や賃貸転用が行えるなど、資産の流動性を確保し、将来の変化に対応できるフレキシブルな資金計画を含めた提案をできる営業が選ばれるとの考えも成り立つのです。
もちろんこれは、筆者の考えた推論に過ぎません。
しかし、このような視点を持ちながら住宅居住白書を読み解くことで、データを眺めるだけでは得られない具体的な方向性が見えてくるのではないでしょうか。
防災に関する情報は必須か
不動産の買い時以外で筆者が注目するのが、防災と建物の品質に関する意識の変化です。
そもそも、地球温暖化や気候変動が進行していることは、各種の観測・分析結果から明らかにされています。
もはや、疑う余地など存在しないとさえ言えるのです。
実際、1時間50mm以上の「非常に激しい雨」は、1976~1985年と比較して2015~2024年には約1.5倍に増加しているとの調査結果が、気象庁から公表されています。
さらに、「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」においては、今後さらに温暖化が進み、平均気温が2℃上昇した場合、治水計画上の降雨量変化倍率は北海道を除く全国平均で約1.1倍、北海道では約1.15倍とされており、4℃上昇した場合には、地域によってさらに大きくなると試算されています。

気候変動による降雨量の増加が及ぼす影響は、洪水氾濫や土砂崩れだけではありません。都市型災害とも言える、内水氾濫の危険性をも増加させます。
千葉県の内水氾濫に関する報道を見て、その恐ろしさを実感された方は多いでしょう。
千葉県では、特に千葉市で2026年8月13~14日にかけて平年8月の総降水量の3倍以上となる降水量が観測された地点があるなど、県内の広い範囲でレベル5大雨特別警報やレベル5土砂災害特別警報などが発せられました。
これによる被害が甚大であるのは間違いありませんが、2026年9月9日現在の第15報を見ても、被害状況の全容はなお確認中でした。
このような激甚災害の増加を背景に、消費者の意識は確実に変化しています。

築年数や構造、緊急避難場所や防災ハザードマップ、地盤などを意識するようになった方が増加するなど、防災意識が確実に浸透しているのです。
意識の変化による影響でしょうか、「物件情報の入手の際、基本情報以外に『あると便利』な情報」の回答推移を見ると、物件写真や周辺相場などの情報が軒並み減少傾向にある一方で、唯一防災情報だけが増加しています。

もちろん、物件の広告をする際、基本情報を補完する写真や物件の品質に関する情報などは大切です。
しかし、防災意識の高まりは疑いようもない事実なのですから、私たち不動産業者は内見や物件紹介時において、間取りや外観、設備機器など、詳しく説明をされなくても消費者がある程度判断できることばかりを説明するのではなく、建物の構造や防災情報について、専門的な見解を交えて説明するほうが、顧客からの信頼を得られる可能性が高まると考えられるのです。
もちろん、この見解も筆者の推論に過ぎません。ですが、得られた情報を検証して推論を立て、それを実際の業務に活かすことで、初めて競争が激化する時代においても、安定した業績を上げ続けられると筆者は考えているのです。
まとめ
本稿では「住宅居住白書」のうち、筆者が特に着目した回答結果について紹介し、推論と仮説、営業手法の在り方を考えてきました。
しかし、紹介した以外にも「現在の住まいを探した方法」「空家についての検討」「不動産店に対するイメージ」「担当者に期待すること」など、注目すべき回答結果があります。
中でも、金利の上昇や建築資材の高騰などによる意識変化については、過去の回答結果と対比させて検証する価値は十分にあります。
本稿では文字数の関係もあるため、それらの回答結果を詳しく取り上げることはできませんでした。
しかし、これらの回答についても過去の調査結果と比較しながら読み解くことで、消費者の意識がどのように変化してきたのか、さらにはその変化が不動産営業にどのような影響を及ぼすのかが見えてくるはずです。
特に、金利や建築資材価格の上昇が続く中で、消費者が「買う・借りる」をどのように判断し、さらには不動産会社や営業担当者に何を求めるようになったのかについては、今後あらためて過去の回答結果と比較しながら検証を試みたいと考えています。
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