【SNSでの不動産広告の規制】SNSだからと甘く考えてはいけない理由《前編》

一昔前は主流であった新聞広告や折込広告は、購読者数の減少に伴い縮小し続けています。

対照的に増加を続けているのがインターネット広告です。

中でもSNSを利用した広告は効果が高いとされ、投稿の気軽さもあり伸び率は著しいと言われています。

実際に不動産契約者を対象とした各種アンケート結果においても、不動産会社や物件を知ったキッカケが「インターネットである」との回答が、他の媒体を圧倒する結果になっており、詳細な分析によればその中にはSNSがキッカケとなっているケースが数多く含まれていると報告されています。

費用もそれほどかからず効果の高いSNS広告を利用しない「手」はありませんが、その際に注意して欲しいのが誇大広告になっていないかなどについての確認です。

SUUMOやアットホームなどのポータルサイトは、不動産広告規約に基づいていますので誇大なものや紛らわしい表現、欠落事項はチェックされています。いわゆる利用ルールと処分基準の統一です。

これらの情報を共有する不動産情報サイト運営会社(大手5社)に対し、そのようなルールにより表現を制限する行為が独占禁止法違反に抵触するかについて平成25年に公取委が審査をしたことがありました。

結果、悪質な「おとり広告」の防止や不動産公正競争規約の遵守、それによりルール違反を繰り返す不動産業者の掲載停止を処分することは独占禁止法上問題になるものではないと結論づけられています。

そのような体制が構築されている各ポータルサイトを利用する場合には意図的に虚偽情報を提供している場合を除き問題となることはないでしょうが、事業者やその従業者などがSNSを利用して発信する広告(行為に該当すると勘案される情報発信も含む)においては第三者チェックが入らない分、不動産公正競争規約や景品表示法に違反しているケースが数多く見受けられます。

自社で運営するホームページにおいて不動産情報を掲載する場合も同様ですが、入力をする担当者レベルもしくはSNSで情報発信する個人において表示規約が理解されていなければ、意図せず違反広告を掲載することもあるでしょう。

このような表示規約違反の広告は、景品表示法と宅地建物取引業法の両方で罰則対象とされ、措置命令や勧告、罰金・違約金などが科せられます。

とくに不動産公正取引協議会の是正勧告を受け入れず掲載を繰り返した場合の違約金は最高500万円とされ、さらに宅地建物取引業法においても不動産広告規制に違反した場合には6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または併科とされています。

宅建業法と景品表示法の罰則はそれぞれ別のものとして判断されますから、最悪は両方の罰則をそれぞれ科せられることになります。ペナルティーがいかに重いか理解できるでしょう。

今回は手軽であるがゆえに正確に理解しておきたいSNS広告について解説します。

景品表示法と公正競争規約の基本を理解しておくことが必要

SNS広告については、不動産営業マンが個人として物件掲載する場合もあるでしょう。

給与において基本給よりも歩合の比率が高い営業マンであれば、個人名で担当物件を紹介し反響が欲しいとの気持ちは理解できます。

ですが日頃から不動産広告を作成している方ならいざしらず、そのような経験がなければ不動産広告に関しての基本となる「公正競争規約」すら詳細に理解していないでしょう。

よい機会ですので、公正競争規約の基本について解説しておきます。

もっとも、その前に景品表示法(正式名称_景品類及び不当表示防止法)についての理解が必要です。

景品表示法による規制

景品表示法第5条1~3項では以下のような表示が、不当表示にあたるとして禁止されています。

  1. 商品内容に関しての表示
    「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者にたいし実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を勧誘し、不正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」
  2. 取引条件に関する不当表示
    「商品または役務の価格その他の取引条件について、実際のものまたは当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

また前二項に掲げるもののほか、商品又は役務に関する事項について、一般消費者に誤認されるおそれのある表示であって、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するものについて第3項として不当表示にあたるとされています。

景品表示法では、上記に該当する広告について行為の差止め、その行為が再び行われることを防止するために必要な事項、これらの実施に関連する公示その他の必要な事項を命じることができるとしていますが、この措置命令は内閣総理大臣の権能とされています。

また当該行為がすでになくなっている場合においても、当該事業者やその承継人にたいしても必要な事項を命じることができるとされています。

さらに内閣総理大臣は違反行為にたいし課徴金(政令で定める方法により算定した売上額の百分の三を乗じた額)を国庫に納付することを命じなければならないとされています。

「命じることができる」ではなく「命じなければならない」と表現されているように、お目溢しできる余地はないと定められているのです。

もっとも、当該課徴金対象行為に関し、同法第8条各条項に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき、又はその額が百五十万円未満であるときは、「その納付を命ずることができない」ともされてはいますが……。

実際には内閣総理大臣による景品表示法に関しての権能は、同法第33条により消費者庁長官に委任され、さらに同条第二項の定めにより公正取引員会が権限の一部を委任されています。

さらに公正取引委員会の認定を受けて、これらの不当勧誘行為などについては事業者団体間において自主的に締結される「公正競争規約」が設けられています。

私たち不動産業者においては「不動産の表示に関する公正競争規約」などがこれにあたります。

規約に関しては「不動産公正取引協議連合会」が規約の制定・改定や統一した解釈についての役割を担っています。

さらに実際の表示などに関しての違反調査・是正措置・課徴金や違約金についての賦課徴収については各地域の不動産公正取引協議会が行っているのです。

このような法律の委任についての流れを理解すれば、私たち不動産業者が遵守しなければならないのは「景品表示法」、「不動産の表示に関する競争規約」、「表示規約施行規則」であるとお分かりいただけるでしょう。

ご存じかと思いますが、「不動産の表示に関する競争規約」については2022年2月1日に消費者庁に改正案が認定・承認・されたことを受け、同年(2022)9月1日から交通機関からの距離表示などについて改正された規則が施行されています。

公正競争規約,公正取引協議会

不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則については、不動産公正取引協議連合会によりインターネットで公開されています。改正点も含めしっかりと読み込んでおく必要があるでしょう。

最新の公正競争規約については下記URLから確認できます。
https://www.rftc.jp/koseikyosokiyaku/

表現には要注意

前項で紹介した公正規約などを熟読し、それを遵守すれば問題表示は行われないでしょう。

ですが筆者が今回のコラムを執筆するにあたりランダムに不動産会社のホームページをピックアップして確認すると、少なからず表示規約に反する表示が見受けられました。

同様にSNS広告や紐づいている社員の掲載内容などを調べましたが、こちらはさらに酷い。

取引態様も明記されず必須とされている記載事項は当然のように抜けています。

さらに連絡先も個人の携帯番号だけで所属先の法人名も記載されていませんので、免許業者であるかどうかもわからない。

さらに「日当たり最高」、「めったにでない希少物件」などの規制ワードが満載。

言うまでもありませんが、表示規約施行規則においては手軽に情報発信できるSNSを利用した情報発信であっても、表示媒体としては同規則第2条におけるインターネット広告に分類されます。

当然に不動産表示規約第8条で定められている「必要な表示事項」、つまり広告主に関する事項はもとより、物件所在地や規模・形質、価格や取引条件、交通その他の利便性に関する事項などは必要な表示事項として、規則で定められた見やすい大きさ・色彩や文字・分かりやすい表現で明瞭にしなければなりません。

それ以外の予告広告などについても、その時期や表示方法が定められていますから、SNSで「近日分譲予定の人気エリアの造成地を少しだけ紹介しちゃいます。気になる方はメッセージ送ってくださいね」などと、住所と写真、区画割り程度の情報だけを掲載すれば公正競争規約・同施行規則違反はもとより、景品表示法における「不当に顧客を勧誘し、不正な競争を阻害するおそれ」に該当します。

またSNSでよく見かけるのが、「値下げしました」との新旧価格を掲載した二重表示です。

規約第20条において二重価格は原則禁止されていますが、規則第14条で「値下げの3ヶ月以上前に公表された価格であって、かつ、値下げ前3ヶ月以上にわたり実際に販売していた価格」である場合にはその限りではないとされています。

ですがよくよく調べてみると、売出しから1ヶ月で価格改定している。

SNSだから分からないだろうと言うのは思い込みで、多少なり知識のある人間が見ればその程度のことはすぐに看破されてしまいます。

中には「現在5,000万円で売出し中ですが、4,500万円ぐらいまでは交渉可能です」なんてコメントが添えられているものもありました。取引態様が媒介になっていましたが、思わず「売り主かっ!」とツッコミを入れてしまう表現です。

一般消費者が必ず値段は下がると思い込み購入を検討した場合において、もし下がらなかった場合にはどのような言い訳をするつもりでしょうか?

公取や不動産公正取引協議連合会の各支部担当者が、そのような基本的な表示を見過ごすことはありません。

またSNSを利用して物件に関する情報を告知した場合、すでに成約になっている物件についての情報を削除せず放置していることが多い。例え意図的ではないにしても、存在しない物件の広告を掲載していることになりますから、おとり広告とみなされる可能性は高いでしょう。それにたいし「うっかりしていました」は通用しません。

うっかりミスであれば一度目は指導で済まされる可能性はありますが、度重なるようであればその限りではありません。

表示規約第27条において、このような表示違反に関しての措置が定められています。

具体的には公正取引協議会は規定に違反する行為があると認められるときは「当該違反行為を排除するために必要な措置を直ちに採るべきことを警告」すると同時に、再度同様の行為を行わないよう警告、または50万円以下の違約金を課すことができるとされているのです。

上記の警告を無視して再度同様の行為を続ければ、500万円以下の違約金を課し、さらに公正取引協議会の構成員である資格の停止、除名処分をするほか消費者庁長官に必要な措置を講じるよう求めることができるとされています。

個人で掲載しているのだから大丈夫と思い込んでいる人も多いようですが、「公正な競争を阻害するような表現」は不当景品類及び不当表示防止法に該当し、事業者であるか否かを要件としません。

つまり外形上の掲載名義が個人や第三者であっても、事業者が提供する商品又は役務の取引であると判断される可能性は高いのです。

SNSだから良いだろうとの思い込みは慎むべきでしょう。

▼後編の記事▼

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