不動産会社がお客様からのクレームを防ぐための3つのコツ|実例と法的根拠

不動産会社がお客様からのクレームを防ぐための3つのコツ|実例と法的根拠

不動産業に従事していると、必ずと言っていいほど発生するのが「お客様からのクレーム」です。

不動産業界は不透明な部分が多く、お客様は常に不安を抱えています。さらに取引金額が大きいため、些細なことでもクレームに発展しやすい構造があります。

そして2026年の今、SNSやGoogleクチコミで一瞬にして情報が拡散される時代です。

たった1件のクレームが、会社の存続そのものを脅かしかねません。

本記事では、不動産会社がお客様からのクレームを防ぐための3つの基本コツと、実際に起きたクレーム事例、そして2026年に対応するためのリスク管理手法まで解説します。

不動産クレームの法的構造を理解する

不動産取引における説明義務の法的根拠は、大きく3つあります。

法律の条文内容
宅建業法35条1項重要事項説明義務(書面交付+宅建士による口頭説明)
宅建業法47条1号事実不告知・不実告知の禁止
信義則(民法)裁判例上、35条以外でも重要事項の説明義務

つまり、宅建業法35条で定められた重要事項以外でも、判断に重大な影響を与える事項は信義則上の説明義務があるということです。

実際、東京高裁・大阪高裁の判例でも、隣人トラブル・軟弱地盤・がけ条例・近隣の暴力団事務所など、35条の条文にない事項でも仲介業者の説明義務違反が認められています。

「条文に書いていないから説明しなくていい」という発想は通用しません。これがクレーム予防の出発点です。

不動産会社がお客様からのクレームを防ぐための3つのコツ

コツ1:知っている情報は全部伝える

営業マンが知っている限りの情報をお客様に伝えるのは、基本中の基本です。

しかし営業マンには売上ノルマがあるため、商談を止める可能性のある「マイナス要因」を伝えずに進めてしまうケースがあります。これは絶対にNGです。

よくあるパターンとして「事故物件であることを知っていながら、お客様に伝えず購入してもらった」というケースがあります。

後にお客様が事故物件であることを知り、大きなクレームに発展――というパターンです。

営業マンの言い訳:「事故が起きたのは確かですが、共用部分での事故だったため告知義務はありません。だからお伝えしませんでした」

非常に曖昧な部分ではありますが、お客様の心理としては「共用部分」だろうが関係なく、物件にかかわる情報はすべて知っておきたいのです。

しかも国土交通省は2021年に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しており、過去の人の死に関する事実については、告知義務の判断基準が明確化されています。

曖昧な解釈で省略すると、後々大きなリスクとなります。

知っていることをきちんと伝えなかった場合の典型的な拡散パターン

お客様:「○○不動産の担当、本当に最悪。マンション買ったんだけど事故物件だって知ってたのに、何も教えてくれなかった。みなさん○○不動産だけは利用するのやめましょう」

友人:「うわ最悪じゃん。訴えられないの?とりあえず○○不動産を利用しないように拡散します!」

今の時代は簡単に情報が拡散します。

X(旧Twitter)、Googleクチコミ、口コミサイト、5ちゃんねる、Yahoo!知恵袋など、ネガティブな情報が拡散される経路は無数にあります。

目先の数字を取りに行くと、後々大きなトラブルにつながります。

知っている限りの情報はすべてお客様にお渡ししましょう。

コツ2:調査をしっかりと行う

調査は「重要事項説明の対象」となっている項目だけでなく、周辺環境・将来的な価格予想・隣人状況など、徹底して行うことでクレームを防げます。

不動産営業マンは案件次第で、

調査レベル内容
簡易調査現場を軽く下見する(周辺の確認程度)
徹底調査独自のチェック項目で詳細に調べ資料化

の使い分けをしますが、できるだけすべての案件を「徹底調査」レベルで行うのが理想です。

隣人調査も超重要

建物や設備のトラブルは事後対応が可能なケースが多いですが、対人トラブルは不動産会社が介入できなくなります。

お客様にとって「ご近所さんはどんな人なのか」は最も気になる部分のひとつです。

マンションであれば上下階・両隣も含めた調査が望ましいでしょう。

調査項目確認方法
隣家の表札・外観外から目視で確認
ペットの有無鳴き声・玄関の様子から推測
住人の生活時間帯ゴミ出しの時間帯などから把握
過去のトラブル履歴自治会・管理組合への問い合わせ
周辺の事件・事故警察庁犯罪情報マップ等で確認

ただし、わざわざ隣人に直接話しかけるなどの調査は不要です。

余計なクレームを生む要因となります。

外からわかる範囲で確認し、お客様にお伝えすることが大切です。

法令上の制限の調査も必須

過去の判例では、軟弱地盤・がけ条例・建築基準法42条の道路規制など、建築上の制限を見落として説明しなかったために仲介業者が損害賠償を命じられた事例が多数あります。

調査必須項目確認先
用途地域・容積率・建ぺい率都市計画課
斜線制限・高度地区建築指導課
ハザードマップ(水害・土砂災害)国交省・自治体公表マップ
がけ条例各都道府県条例
接道状況道路台帳
上下水道・ガス各事業者

特に2020年8月から重要事項説明書に水害ハザードマップの説明が義務化されているため、この点は絶対に漏らさないようにしてください。

コツ3:知ったかぶりはやめましょう

営業マンは不動産のプロです。

お客様もプロフェッショナルだと思っているため、何でも答えてくれると期待しています。

しかし中にはイレギュラーな質問もあります。

自分にわからない質問を受けたとき、知ったかぶりをして適当に回答すると、後々大きなクレームになる可能性があります。

イレギュラーな質問例わからない場合の対応
周辺地域の平均年収は?「政府統計を確認して後日回答します」
犯罪発生率は?「警察庁データで調べて後日お伝えします」
近くのコンビニの数は?「Googleマップで確認して回答します」
学区の評判は?「教育委員会データを取得します」
最寄り駅の電車混雑率は?「鉄道会社の公表資料を調べます」

知っていればその場で答えればいいですが、適当に答えて実際と違ったとなれば、それがクレームの種になります。

わからないことははっきりと「現時点では分かりませんが、調査して後日ご回答します」と伝えるのが鉄則です。

調べられる範囲であれば、後日きちんと回答すれば問題ありません。

プロとしての姿勢を示すには、知ったかぶりよりも「正確に調べてお答えします」と言える誠実さの方が遥かに信頼につながります。

実際に起きた不動産クレーム事例

事例1:根拠のない噂話からクレームに発展

お客様は不動産や土地を購入する際、現在だけでなく将来も見据えて判断します。

ある営業マンが、

「この辺りは○○という大型施設が数年以内に建つ予定なんですよ!かなり便利になるので、今後は地代が上がるでしょうね!」

と話しました。それを聞いたお客様は、将来の利便性と資産価値の上昇を期待して物件を購入。

しかし何年経っても大型施設が建つ気配はありません。

土地の価格が上がると信じていたお客様は怒り心頭で、結果的に大きなクレームに発展しました。

教訓:根拠のない噂話・憶測の情報提供は絶対NG

確定情報(自治体の公表資料・記者発表・許認可済み案件)以外は、軽々しく話さないことが鉄則です。

「噂レベル」「個人の予想」と明示しても、お客様の記憶からはその但し書きは消え、断言された情報として残ってしまいます。

事例2:希望の家が建てられない土地

土地購入に関連する典型的なクレームです。

あるお客様が「3階建て5LDK」の家を建てるため、土地を探していました。

不動産会社に希望を伝え、条件に合う土地を紹介してもらい購入しました。

しかし、いざ家を建てる段階になると、その土地は容積率と斜線制限により「3階建ての家を建てることができない土地」だったのです。

当然、お客様は怒り、大きなクレームと損害賠償請求につながりました。

教訓:建築希望の確認+法令制限の徹底調査が必須

確認項目内容
お客様の建築希望階数・部屋数・延床面積をヒアリング
用途地域第一種低層住居専用地域では3階建て不可も
容積率・建ぺい率希望の延床面積が実現できるか確認
斜線制限・北側斜線希望の階数が建てられるか確認
高度地区高さ制限の有無
角地・防火指定構造や仕様への影響

土地仲介の場合、お客様の建築計画と法令制限の整合性を確認するのは仲介業者の責務です。

見落としは即座に説明義務違反となり、損害賠償の対象になります。

2026年のクレーム予防:SNS時代のリスク管理

SNS時代の今、クレームは「会社の中だけの問題」ではなくなりました。

拡散経路リスク
Googleクチコミ検索結果に半永久的に残る
X(旧Twitter)拡散スピードが圧倒的に速い
口コミサイト(マンションコミュニティ等)物件名で検索した人全員が見る
Yahoo!知恵袋上位表示されやすい
5ちゃんねる専門スレッドで詳細議論
YouTube動画コンテンツとして拡散

これらに一度ネガティブな情報が掲載されると、削除は極めて困難です。事後対応より事前予防の方が圧倒的に効率的です。

予防策として有効な施策

施策効果
重要事項説明の録画・録音説明したことの証跡を残す
物件状況等報告書の徹底活用売主の告知を文書化
顧客カルテの作成やりとりを時系列で記録
社内チェックリストの整備重要項目の漏れ防止
ダブルチェック体制担当者+責任者の二重確認
IT重説の活用録画機能で証跡管理

2021年から賃貸・売買ともにIT重説(オンラインでの重要事項説明)が全面解禁されており、録画機能を活用することで「言った・言わない」を防止できます。

クレームが起きてしまった場合の対応原則

それでもクレームが起きた場合の対応原則をまとめます。

対応ステップ内容
ステップ1お客様の話を最後まで聞く(遮らない)
ステップ2事実関係を正確に把握する
ステップ3自社に非がある部分は明確に謝罪
ステップ4自社に非がない部分は冷静に説明
ステップ5解決策を具体的に提示
ステップ6対応経過を社内で記録・共有
ステップ7法的判断が必要な場合は弁護士相談

「とにかく謝罪し続ける」のはNGです。

理由は、何に対して謝っているかが曖昧になり、後々「謝ったのだから責任を取れ」とエスカレートするリスクがあるからです。

謝罪する範囲を明確にし、自社に非がない部分は冷静に説明することが、長期的なお客様との信頼関係維持につながります。

まとめ

不動産会社がクレームを防ぐ方法は、シンプルに次の3つです。

コツ内容
コツ1知っている情報をすべて伝える
コツ2調査をしっかりと行う
コツ3知ったかぶりをしない

いずれも営業マンとして基本的なことですが、現場の数字プレッシャーの中で疎かになりがちな部分でもあります。

お客様のことを第一に考えて日々の営業活動を行っていれば、そもそもクレーム自体を防ぐことができますし、万一クレームが起きてもお客様はご納得してくださるケースがほとんどです。

「クレームをどうやったら防げるか」も重要ですが、もう一段上の視点で「お客様にどうやって満足いただくか」を追求してみてください。満足の追求が、結果的に最大のクレーム予防策となります。

法令違反による行政処分や損害賠償リスクは、SNS時代の今、会社の存続を脅かすレベルにまで深刻化しています。基本に忠実な誠実な営業姿勢こそが、令和の不動産業を生き抜く最大の武器です。

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