【知らなかったでは済まされない】不実告知と断定的判断の提供が招く宅建業者の説明責任

内見立ち会いの説明時において、不動産営業が最も注意しなければならないのが不実告知と断定的判断の提供です。
調査を実施し、事実として確認できた事項については明言しても問題は生じないでしょうが、例えば、物件価格について、客観的な根拠なく「格安です」などと断定した場合、後に条件の近い物件がより低い価格で売り出された途端、顧客から不信感を抱かれる可能性があります。
それ以外にも、再開発に関する情報や、近隣の空き地で建築予定があるか否かといった現時点では確定していない事項について、さも決定事項であるかのように説明すれば、問題が生じる可能性は極めて高いと言えるでしょう。
実際、行政処分や訴訟又は和解に至った事例を見ていくと、不実告知、断定的判断の提供、重要事項の不告知が原因となっているケースは少なくありません。
問題が生じた時に、営業担当者本人が、
「お客様を安心させたかっただけ」
「決断を後押ししたかっただけ」
と主張しても、説明内容に齟齬があれば宅地建物取引業法に違反したとして行政処分を受けたり、損害賠償責任を問われる可能性があるのです。
近年では、インターネットやSNS、生成AIの普及によって顧客自身が容易に検証できる時代となりました。
また、生成AIは入力されたプロンプトの内容やハルシネーション(もっともらしい誤情報を生成する現象)などの影響によって、時に誤った情報を提供したり、「違法の可能性があるため、訴訟を検討すべき」といった極端な回答を示したりする場合があります。
統計的なデータが示されているわけではありませんが、筆者のもとに「生成AIが行政機関への相談や訴訟を検討すべきだと回答したのだが、本当にそれが最適解なのか」といった相談が寄せられるようになりました。
このような相談が増えていることから、生成AIによる回答を契機に行政機関への相談や法的対応を検討するケースは、今後さらに増加していく可能性があると言えるでしょう。
それだけに、私たち不動産会社は、これまで以上に説明責任を意識した対応を徹底する必要があるのです。
なぜなら、曖昧な説明や根拠のない断定的判断を提供するリスクは、かつてないほど高まっているからです。
本稿では、顧客との間で不要なトラブルを生じさせないために覚えておきたい不実告知と断定的判断の処分事例を紹介するとともに、不確定な事項についてはどのように説明すれば良いか、その具体的なトークスクリプト例について解説します。
宅建業法が禁止する「不実告知」と「断定的判断の提供」とは
日頃から、不動産取引実務に従事されている皆さんにとっては「言わずもがな」ではありますが、営業担当者が顧客へ説明する内容は、単なる営業トークではありません。
宅地建物取引業者には、取引の相手方が適切な判断を行えるよう、正確な情報を提供する責任が課されているからです。
例えば、将来的な価格の下落を心配している顧客に対して、「このエリアは子育て環境に適しているため、少なくとも数年間は価格が下がることはありません」と説明した場合、それを裏付ける客観的な根拠が存在しないにもかかわらず、将来における変動が不確実な事項について、あたかも確定事実であるかのような説明を行ったとして問題視される可能性があります。
そもそも、将来的な価格変動の可能性は、確定事項として説明できる内容ではありません。
例えば、
「近隣には公園が整備され、その管理も適切に行われています。そのため、子育て世代から一定の評価を受けています」
「過去10年の成約事例を見る限り、周辺エリアは価格が上昇傾向にあります。さらに、安定した取引が行われていることも確認できます」
といった、確認可能な事実に基づく説明であれば、不要なオーバートークを用いずとも、顧客が自ら判断するための有益な情報提供となります。
一方で、
「この地域なら将来的にも価格は下がりません」
「この物件なら、購入した後に後悔することなどありません」
「この価格で購入できる機会は、今後あるとは限りません」
といった説明をすれば、営業担当者自身が将来を保証しているかのように受け取られる可能性があります。
したがって、将来的な価格の下落を心配している顧客に対しては、「近年の成約事例を見る限り、このエリアは10年前と比較して1.3倍ほどの成約価格で推移しています。確実とまでは言い切れませんが、当面は極端な値下がりが発生する可能性は低いと考えられます」と説明するのが、適切な説明方法の一例だと言えるでしょう。
この説明であれば、価格の推移に関する事実を提供したうえで、将来的な変動も考慮した情報を提供したと評価される可能性が高いからです。
さらに、補足情報としてエリアが高評価を受けている具体的な理由、例えば、小・中学校の評判や買い物施設の利便性、公園の整備に関する情報などを提供すれば、顧客はより判断しやすくなるでしょう。
このように、重要なのは、「事実」と「予測」、そして「営業担当者の主観」を明確に区別することです。
営業実務では、顧客から「この物件を購入して大丈夫ですか」「将来的に値下がりしませんか」といった質問を受ける場面が少なくありません。
これは、物件を気には入っているけれども、決断するためにもう一押しして欲しい時によく発せられる質問です。
しかし、これを真に受け「問題ありません」、「間違いありません」、「大丈夫です」と即答してしまうのは考えものです。
状況によっては、営業担当者が責任を持って保証したものと受け取られかねないからです。
周囲から一流と目される不動産営業は、事実関係が確認できない不確実な情報を、断定して提供することはありません。
これは、専門家に求められているのが、顧客を安心させるための断言ではないことを、深く理解しているからです。
断定的な表現を多用すれば、一時的に成約件数が増える可能性はあるでしょう。
しかし、そのような営業手法はいずれ顧客との関係性において問題が生じ、トラブルを抱え込む結果になりがちです。
これは、短期的な成果を優先し、顧客との長期的な関係構築を軽視する営業に見られがちな傾向でもあります。
安定して実績を挙げ続ける営業ほど、確認できる事実のみを提示し、そのうえで考えられるメリットやリスクを丁寧に説明するに留め、最終的な判断は顧客に委ねる方法を取っているものです。
これは、不実告知についても同様です。
例えば、建物の状態、法令上の制限、周辺環境、過去のメンテナンス履歴など、購入判断に影響を及ぼす事項について誤った説明を行えば、たとえ営業担当が「騙すつもりはなかった」、「知識が不足していた」と主張しても、それが容認されることはありません。
顧客にとって営業は、経験や知見の程度によらず不動産のプロと見なされるからです。
そもそも宅地建物取引業は、「知らなかった」、「売主から聞いていなかった」、「以前の担当者からそう説明されていた」といった主張で責任を免れるほど、説明責任が軽い業界ではありません。
だからこそ、不動産営業に求められているのが、単に物件の魅力を伝える能力だけではないことを自覚する必要があるのです。
確認できる事実と不確実な事項を区別し、顧客が適切な判断を行えるように情報を提供する能力こそ、これからの時代に必要とされる「真の営業力」だと言えるのです。
事例から学ぶ「断定的判断」の危険性
ここでは、実際の裁判例を基に、どのような説明が問題となったのかを見ていきましょう。
なお、本章で紹介する事例は、公表されている裁判例などを基に、その要点を整理したものです。
営業担当者の中には、本章を読んで「ここまで厳しく判断されるのか」と感じる事例があるかもしれません。
しかし、顧客の判断に重要な影響を及ぼす事項について、事実と異なる説明を行う、あるいは不確実な事項を確定事項であるかのように説明した責任は、皆さんが思われているよりもはるかに重いのです。
事例① 「確実に将来値上がりする」と説明したケース
不動産の価格は、経済情勢や金利動向、人口動態、都市計画、需給バランスなど、多くの要因によって変動します。そのため、取引時点で価格が上昇基調にある場合でも、それが将来的に持続するとは限りません。
「将来的な開発が計画されており、確実に値上がりする」などと説明して、ほとんど無価値の土地を高値で売りつけた事例としては、原野商法がその典型と言えるでしょう。
原野商法に関する裁判例は数多く確認できます。
例えば、昭和63年2月24日の大阪地裁では、不動産知識のない若者に虚偽の説明をして、誤信させるような勧誘方法で時価の10倍もの価格で土地を販売した会社及び代表者に対して、不法行為責任を認めています(判例時報1192号117頁)。
裁判所は、不動産業者として許容される顧客獲得のための正常な宣伝、勧誘方法の範囲を著しく逸脱した違法な行為に当たるとして、次の点を問題視しました。
- 時価よりもはるかに安いように装っていたこと
- 本件土地が1~2年後に、売買価格より大幅に値上がりするかのように断定的な説明をしたこと
- 転売するのが困難だと思われるのに、1年後の転売を確約して買主に出損金額の回収が容易であるかのように誤信させたこと
また、昭和63年9月28日の東京地裁判決では、新幹線の開通や政府援助の開発等を理由として
- 1年後に必ず値上がりする
- 土地の転売は責任をもって自社で引き受ける
- 早く契約しないと無くなってしまう
などと勧誘したことが問題となりました。
この事案では、これらの説明内容を裏付ける書面が存在しなかったことから、契約内容として保証したものではなく、いわゆるセールストークに過ぎないとの判断が示されました。
もっとも、その一方で「契約責任は生じないとしても、セールストークとして許容される程度を超え、不法行為を構成する違法な勧誘方法である」と判断しています(判例時報1353号72頁)。
同様の裁判例においても、勧誘の際、値上がりや転売利益の保証について書面化されていない場合には、契約上の特約までは認められないケースが少なくありません。
しかし、それは営業担当者の責任が否定されたことを意味するものではありません。
通常の営業活動として許容される範囲を逸脱した説明を行ったと判断される場合には、不法行為責任を認めているのです。
また、将来的な眺望や景観について、「永久に保証される」と受け取られかねない説明をした場合、多くの裁判例では
「私人が、私人に対して、不変の眺望の利益を将来にわたって確約することは、物理的にも、経済的にも、不可能であることが誰の目にも明らかであると解される」
との判断が示されています。
しかし、信義則上の説明義務違反が認められた裁判例も確認されることを、忘れてはならないでしょう。
原野商法を巡る裁判が行われた当時は、現在の宅地建物取引業法第47条の2第1号で規定された「利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断の提供」を直接規制する規定は存在していませんでした。
それにもかかわらず、裁判所は民法上の不法行為責任などを根拠として違法性を認めているのです。
つまり、規定が存在していなかった当時でさえ、「確実に値上がりする」「必ず利益が出る」といった勧誘が違法と判断されたのですから、断定的判断の提供が明文で禁止されている現在の宅地建物取引業法の下では、営業担当者にこれまで以上に慎重な説明が求められていると言えるのです。
顧客から将来的な価格動向について質問された場合、過去の成約事例や既に公表されている都市計画、人口動態などの客観的事実を説明することは問題ありません。
しかし、将来が保証されたと受け取られかねない説明は避け、あくまでも「将来を確約するものではありません」と前置きしたうえで情報を提供する姿勢が、不要なトラブルを防ぐうえで不可欠なのです。
「知らなかった」では済まされない、不実告知
宅地建物取引業法が禁止しているのは、断定的判断の提供だけではありません。
むしろ、近年発生しているトラブルにおいては、不実告知を問われているケースの方が多いように感じます。
不実告知は、「故意に嘘をついた場合」だけが対象ではありません。
故意・過失を問わず、事実と異なる説明を行った場合に問題となる可能性があるのです。
さらに、説明すれば購入を見合わされると考え、告知を怠った場合も「不利益事実の不告知」にあたるとして責任を問われる可能性があります。
裁判に発展した場合には、消費者契約法第4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)に基づく取消しにとどまらず、説明義務違反や不法行為責任について争われます。
筆者が顧客から相談を受けた事例では、営業担当者が次のように主張しているケースが散見されました。
- 売主からそのように聞いていた
- 前任者から引き継いだ内容を説明した
しかし、これらは言い訳にもなりません。
結果として事実と異なる説明をした以上、責任を免れることはできないのです。
実際の裁判例でも、営業担当者が事実と異なる説明を行った結果、買主が本来予定していた利用方法を実現できず、損害賠償責任が認められた事例は少なくありません。
例えば、十分な調査を実施しないまま、次のような説明をした場合です。
- 建築確認が取得できると説明した
- 希望する建物が建築できると説明した
- 境界を巡るトラブルなどは確認されなかったと説明した
- 位置指定を受けていない私道であるにもかかわらず、接道要件を満たしていると説明した
これらが後に事実と異なることが判明した場合、その責任を問われることになります。
もちろん、営業担当者のすべてが専門知識を備えているわけではありません。
しかし、知識が欠けているからといって、調査義務や確認義務が免除されるわけでもありません。
自ら調査を行い、不明な部分については行政窓口や信頼できる同僚、あるいは宅地建物取引士に確認するなど、正確な情報を把握するための行動が不可欠なのです。
もっとも、他社物件の内見については、販売資料に記載された以上の内容を把握できているわけではありません。そのため、確認できていない事項について質問された場合には、
「現時点では確認ができておりません」
「行政に照会したうえで、改めて回答いたします」
「販売資料の記載事項について、改めて確認いたします」
と説明することが、結果として顧客との信頼関係を維持することにつながります。
顧客に対して「分かりません」「不明です」と回答するのを極端に恐れる営業担当を時折見かけます。
これは、「知識の欠如=プロ失格」と過剰に捉えている、あるいは顧客から「頼りない」「勉強不足だ」と失望されることを極端に恐れているからかもしれません。
しかし、曖昧な回答や嘘は、後に誤まった判断による契約や顧客からの信頼失落に発展する可能性を高めます。
不実告知を防止するためには、けっして自らの知識量を過信してはならないのです。
確認できた事実と、確認できていない事項を明確に区別し、必要に応じて調査を行う。
この姿勢こそが、営業担当者を不要な紛争や行政処分から守ることにつながることを、忘れてはならないのです。
不実告知が争われたケースと司法判断
不動産取引において、「不実告知」をめぐる裁判例は数多く確認できます。
本章では、私たち宅地建物取引業者が紛争に巻き込まれないために参考となる裁判例と、司法判断を見ていきましょう。
事例① 賃貸マンションの買主が、付属設備である機械式駐車場の劣化の程度について、売主及び媒介業者が説明を怠ったとして、損害賠償を請求した事例(298012WLJPCA2022 ジャパン・ウエストロー 29・3・4 令 東京地判)

この事件では、買主が物件の内見に先立ち、駐車場の保守点検業務を請け負っていた業者から約800万円の「制御入替工事費用のご提案」を入手していました。
さらに、物件の内見時に媒介業者から、
「機械式駐車場は近い将来リニューアルが必要で、その費用として700万円程度が見込まれる」
との説明を受けていました。
加えて、売買契約時の重要事項説明書には、
「本物件建物およびその設備ならびに什器・備品は経年変化により老朽化・機能低下がみられます。これを原因として補修・修繕等が必要となり、その費用がかかる可能性があります」
との記載はあったものの、機械式駐車場について特段の説明はありませんでした。
売主は、保守点検業者から部品交換が必要である旨の報告書を受領していましたが、その報告書には、「使用を中止すべきである」や「部品交換を行わなければ危険である」との指摘までは記載されておらず、かつ、売却前に保守点検契約も終了していました。
そのため、買主は物件引き渡し後、新たな保守点検契約を締結しようとしましたが、委託先が見つからず、従前の保守会社へ依頼したところ、
「リニューアルか、部品交換をしない限り業務を請け負えない」
として断られてしまいます。
その後、新たな保守点検業者を見つけ保守点検契約を締結しましたが、売買契約締結から約1年4か月後、その会社から、「事故や連続故障が発生する恐れがあるため、大規模な改修工事を行うことをお勧めします」との報告を受け、最終的には保守契約も終了しました。
その結果、買主は機械式駐車場の利用を停止し、翌年には機械式駐車場を解体します。
そこで買主は、売主と媒介業者には機械式駐車場の劣化状況について説明義務違反があり、その結果損害を被ったとして、損害賠償請求訴訟を提起したのです。
しかし、裁判所は買主の請求を棄却します。
裁判所が説明義務違反を否定した理由は、次のとおりです。
- 報告書には部品交換が必要との記載はあるものの、使用中止や危険性についての指摘まではされていなかったこと。
- 売買契約から約1年4か月後に作成された報告書をもって、売買契約当時の状況を直ちに裏付けることはできないこと。
- 媒介業者は買主に対し、「機械式駐車場は近い将来リニューアルが必要で、その費用として700万円程度が見込まれる」との説明をしており、この説明が不足していたとは認められないこと。
- 売主及び媒介業者は機械式駐車場の専門業者ではなく、当時得られた情報を前提とすれば、見通しの甘さが直ちに説明義務違反を基礎づけるものとは認められないこと。
これらの理由から裁判所は売主及び媒介業者の説明義務違反を否定したのです。
もっとも、この事例から学ぶべきことは少なくありません。
仮に媒介業者が、買主に対して「購入前に保守点検業者へ直接確認されることをお勧めします」と一言添えていれば、不要な紛争そのものを回避できた可能性があるからです。
私たち媒介業者には、宅地建物取引業法で規定された事項を超えて、設備や付帯物についての専門的な技術評価まで説明する義務はありません。
しかし、買主の購入判断に影響を及ぼす可能性がある事項については、専門業者への確認を促すなど、買主が適切な判断を行えるよう配慮する姿勢が、結果として紛争防止につながると言えるのです。
また、本件では媒介業者が機械式駐車場のリニューアル費用の目安について説明していたことも、裁判所が説明義務違反を否定する方向に働いた一事情となりました。
つまり、知り得た情報を適切に提供し、専門的な判断が必要な事項については専門業者への確認を促す姿勢を示したいた点が評価されたとも読み取ることができます。
営業担当が説明する際に重要なのは、専門家でもない事項について安易に断定することではなく、自らが説明できる範囲と専門家へ確認すべき範囲を適正に区別することだと言えるでしょう。
事例② 過去の建物火災についての調査・説明義務違反が認められた事例(東京地判 平16・4・23 判時1866―65)

この事件は、売買契約時に、当該建物において過去に火災が発生していたにもかかわらず、その説明が行われなかったとして、売主に対しては瑕疵担保責任(当時の民法)または不法行為責任、媒介業者に対しては媒介契約上の債務不履行責任に基づく損害賠償を請求した事案です。
なお、現在では民法改正により、瑕疵担保責任は「契約不適合責任」へ変更されています。
しかし、本件は改正前の事案であるため、当時の法制度に基づき判断されています。
もっとも、本判決から学ぶべき点は、瑕疵担保責任という制度そのものではありません。
裁判所が、媒介業者にどの範囲までの調査・説明義務を求めたかという点です。
この考え方は、現在の契約不適合責任制度の下でも、媒介業者の責任範囲を考えるうえで十分参考になると言えるでしょう。
実際に、この事案において裁判所は、売主だけではなく、媒介業者に対しても損害賠償責任を認めています。
本件建物は昭和49年に新築され、その後増築されていました。平成4年10月に台所の一部を焼損する火災が発生し、消防車も出動していました。
しかし、この事実は買主に説明されず、重要事項説明書にも記載されていませんでした。
この事実関係に対し、裁判所は次のように判断しています。
- 火災が通常の経年変化を超える損傷を生じさせるものである場合には、建物の瑕疵となり得る。
- 火災歴が買主に告知されなかった場合には、隠れた瑕疵に該当し得る。
- 本件火災は規模の小さいものであったが、相応の注意をもって物件を観察すれば焼損の痕跡を確認できることに加え、消火活動が行われなかったとはいえ消防車が出動したという事実は、買主の購入意欲を減退させる事情となる。
- その結果、本件建物の客観的交換価値を低下させると評価できる。
- 媒介業者は、売主の説明だけに依拠するのではなく、通常の注意を尽くせば把握できる事項については自ら調査し、その結果を買主に提供すべき契約上の義務を負う。
- 媒介業者は「売主へ火災歴を確認したが、回答は得られなかった」と主張したものの、それだけでは調査義務を尽くしたとは認められない。
この判決から読み取れるのは、媒介業者は売主による告知内容をただ伝達するだけでは足りず、通常期待される範囲で自主的な調査を尽くす義務があるという点です。
例えば、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、物件状況報告書等へ記載を求めることで、通常の調査義務は果たしたものとみなすことが明記されています。
そのため、告知書等に記載されなかった事実が後日判明したとしても、媒介業者には一切の法的責任が生じないと誤解されている方を時折見受けられます。
しかし、この理解は必ずしも正確ではありません。
確かに、ガイドラインでは宅地建物取引業者に対し、自ら周辺への聞き込みや警察・消防への照会まで行うことを求めていません。
しかし、一方で物件の状況や売主からの説明、周辺事情などから、告知内容に疑義が生じる客観的事情が認められる場合には、追加調査や売主への再確認など、合理的な範囲で確認を尽くすことが求められます。
つまり、「物件状況報告書等に記載がなかった」という1点のみをもって、常に調査義務を尽くしたことになるとは限らないのです。
国土交通省は、ガイドラインを不動産取引における「心理的瑕疵」の有無を判断する際、参考にすべき行政上の運用指針であるとする一方で、民事上の損害賠償責任が一律に左右される性質のものではない旨を示しています。
したがって、ガイドラインに沿った対応を行ったからといって、直ちに民事上の責任まで免責されるわけではないのです。
つまり、通常の注意を払えば確認できたにもかかわらず、それを怠った結果、買主へ誤った情報を提供した場合には、善良なる管理者として要求される注意義務や説明義務違反が問題となる可能性があるのです。
現実としては、宅地建物取引業者の調査・説明義務を巡る判例を概観する限り、宅地建物取引業法を遵守し、通常求められる調査・説明を尽くしている限り、一方的な責任を負わされた事例は多くありません。
その一方で、通常行うべき調査を怠った結果、買主に誤った認識を与えた事案や、重要な事実を知りながら説明を行わなかった事案では、説明義務違反や不法行為責任が認められているのです。
例えば、修補不能な雨漏りのあるマンションを、その事実を秘して取引を締結させた事例では売主や媒介業者の不法行為責任が認められています。
これらの裁判例に共通しているのは、裁判所が「結果」だけではなく、「その結果に至るまでに、宅地建物取引業者として通常期待される調査や確認を尽くしたか」という過程を重視している点です。
そして、それらの裁判例から導かれる結論は極めて明確です。
宅地建物取引業者に求められているのは、「知っていることだけを説明する」ことではなく、「通常期待される調査を尽くし、その結果として確認できた事実を、正確かつ誤解を与えることのないよう説明すること」だということです。
もちろん、そこへ希望的観測や推測、あるいは営業上の都合による楽観的な見通しを加えてしまえば、不実告知や説明義務違反へ発展するだけではなく、損害賠償責任や行政上の責任を問われる危険性が高まります。
不確実な事項については、その旨を率直に伝え、必要に応じて専門家や行政機関への確認を促す姿勢こそが、不要な紛争を防ぐ最善の方法です。
顧客から信頼される営業担当者は、何でも知っている人ではありません。確認できた事実と、確認できない事項を明確に区別し、必要な調査を怠らない人です。
そして、その誠実な姿勢こそが顧客を守るだけではなく、結果として宅地建物取引業者自身を不要な紛争や行政処分、さらには損害賠償請求から守る最善の防衛策となることを、忘れてはならないのです。
まとめ
顧客が不動産を購入する理由が一律ではないように、購入を判断する際に重視する点もまた一律ではありません。
したがって、宅地建物取引業法で義務付けられている説明を行うことは当然として、それ以外にどのような事項について配慮し、説明すべきか判断に迷う場面も少なくありません。
「ご質問の内容について、私たちには説明する義務が課せられていません。大変申し訳ございませんが、専門家にお問い合わせください」と回答するのが、ある意味で正解なのかも知れません。
しかし、現実の営業活動においてそのような対応は、顧客との関係構築を阻害し、結果として機会損失につながる可能性もあります。
例えば、子どもに喘息の症状が見られるため自然素材を使用した住宅を希望された場合や、たとえ告知義務の対象外であったとしても、過去に人の死亡があった物件への入居は避けたいと希望された場合です。
前者においては、顧客の要望に応じて単に自然素材で建築された住宅を探すだけでは十分とは言えません。
まずは、「自然素材であれば安全・安心である」という思い込みに対し、建築材料の特性や化学物質のリスクについて正確な情報を提供し、顧客と一緒にリスクを整理・評価(アセスメント)することが必要でしょう。
これは、スギやヒノキなどの無垢材、天然オイル塗料、漆喰などに含まれる成分によって、アレルギー反応を引き起こすケースが報告されており、また、住宅自体に問題がなかったとしても、新たに購入した家具やカーテンなどから揮発する科学物質が原因となり、症状が現れる場合もあるからです。
後者の場合には、売主に対して過去の履歴を可能な限り確認し、回答内容を書面へ記載してもらうことが望ましいでしょう。
なぜなら、このような顧客固有の希望を把握しながら十分な確認を行わず契約を締結した場合には、宅地建物取引業法上の義務違反には直ちに該当したいとしても、説明義務違反や債務不履行責任などを巡る紛争へと発展する可能性があるからです。
このように、顧客の「こだわり」は、物件を引渡し後に「説明されていれば契約しなかった」「期待していた内容と違う」と感じた際のトラブルの大きさに直結します。
だからこそ、私たち宅地建物取引業者には、ヒアリングを徹底したうえで、宅地建物取引業法上の義務を果たすだけではなく、顧客の購入目的や価値観を踏まえ、必要に応じた追加調査や確認を行う姿勢が求められるのです。
そして、その調査結果や確認内容を、特約や確認書、物件状況報告書などの書面によって可視化しておくことで、顧客との認識に関する齟齬を防ぐだけではなく、どのような調査を行い、どのように説明をしたのかという事実を客観的に残すことにつながるのです。
そして、その積み重ねこそが、顧客に安心して取引を行っていただくための基盤になると同時に、宅地建物取引業者自身を不実告知や断定的判断の提供、さらには説明義務違反を巡る不要な紛争から守る、最も有効なリスクマネジメントとなるのです。
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