【見た目だけでは分からない】造成地の安全性を確認するために必要な調査とは

【見た目だけでは分からない】造成地の安全性を確認するために必要な調査とは

静岡県熱海市伊豆山で28名(災害関連死1名を含む)の犠牲者を出し、建物136棟への被害を発生させた土石流災害が発生したのは2021年(令和3年)のことです。

土石流の発生を直接的に誘引したのは48時間で321mmを記録した大雨とされる一方で、届出内容を大きく上回る盛土が素因の一つとなり、被害を拡大させたと指摘されています。

梅雨前線に伴う大雨による崩壊地等分布図

熱海市議会の調査特別委員会(百条委員会)は、令和5年2月の定例会において調査報告書を全会一致で決定し、調査を終了しました。

同調査報告書からは、県土採取等規制条例に基づき提出された『土の採取等計画書』について、必要記載事項9項目のうち3項目が未記載の状態であるにもかかわらず受理されていたことが確認されています。

また、事業者についても、「態度が威圧的で大声を出し、机を叩いた」などとする事実関係が問題とされたほか、行政側が問題のある事業者であると認識しながらも、顧問弁護士や警察関係者に協力を求めるなどの横断的な対応を行わなかった点が指摘されています。

もっとも、百条委員会の報告書が確認しているのは、当時の行政対応や事実経過であり、これをもって直ちに個々の関係者に対し、刑事・民事上の責任を認定したものではありません。

実際、届出計画書とは異なる盛土を市担当者が現地で確認した以降、文書指導や現場指導を複数回行っていたのは事実です。

しかし、県土地対策課と協議したうえで行政処分の検討をした記録は確認できるものの、最終的に措置命令の発出は見送られています。

さらに重大な点として、土の採取等に関する届出について、完了届の提出や検査等が確認されていない状態、つまりは申請上の造成工事が完了していない状態で、所有権が移転されていたことも報告書で指摘されています。

とはいえ、実際の造成工事が行われたのは調査報告書を作成する10年以上前であるため、聞き取りを行った参考人や証人の多くは「記憶が定かではない」と証言するなど、事実関係を認定するのが極めて困難な状態であったと報告書でも総括されています。

被災者や遺族らは、造成に関わったとして、旧土地所有者である不動産管理会社と現所有者の元経営陣らに対し刑事告発すると同時に、損害賠償請求訴訟を提起しています。

さらに、違法な盛土を認識しながら実効性のある是正措置を取らなかったとして、熱海市や静岡県に対しても損害賠償請求や刑事告発等が行われています。

しかし、災害発生から5年を経過した現在も、法的な責任に対する最終的な判断は示されていません。

民事訴訟については2026年9月17日に審理が終結し、判決は2027年3月19日に言い渡される予定となっていますが、現時点ではまだ第一審の判決前です。

原告・被告の一方あるいは双方が、判決を不服として控訴を申し立てる可能性があるため、最終的な決着はまだ先かもしれません。

また、刑事事件については、現在も捜査が続いていると報じられています。

このように法的責任の判断を難しくしている背景には、土石流の発生と個々の行為との因果関係に加え、盛土の造成者や所有者、行政担当者が、具体的に崩落の危険性をどの程度認識し、あるいは認識できていたのかという「予見可能性」などを、証拠に基づいて立証する必要があるからです。

そして裁判例を参考にしようにも、前例があまりにも乏しいといった現実が立ちはだかっているのです。

筆者は、熱海市土石流災害発生以降、注意深く経緯の確認や裁判動向を見ていますが、本稿で述べたいのはそこではありません。

本稿で取り上げたいのは、政府が土石流災害を受け、全国の自治体に対して「盛土総点検」を指示した結果、約36,000箇所の点検が行われ、そのうち、必要な災害防止措置が確認できない盛土が516箇所、廃棄物の投棄等が確認された盛土が142箇所、許可・届出等の手続きがとられていなかった盛土が728箇所、手続き内容と現地の状況に相違があった盛土が515箇所確認された点です。

盛度総点検,内訳

もっとも、これらには重複があるため単純に合計することはできません。

しかし、重複を除いた問題箇所は、1,089箇所に上ります。

この事実を、「約36,000箇所に対して1,089箇所なら、わずか3%じゃないか」と単純に考えてはなりません。

そもそも、点検が実施された約36,000箇所は、時間的・人員的な制約の関係から、行政が持つ既存情報や航空写真などを活用して抽出された箇所を中心に、「人家や避難所等に影響を与えるおそれがある場所」「大規模盛土造成地」などを優先して実施されたに過ぎないのです。

私たち不動産業者がいたるところで目にする、擁壁ブロックの脱落やズレ、ひび割れなどが発生している造成地の全てが点検されたわけではないのです。

また、点検によって問題が確認された造成地については応急対策や、盛土の撤去や擁壁の設置といった抜本的な危険箇所対策が取られ、さらには「造成宅地防災区域」の指定がなされるなど、必要な措置が講じられてはいます。

しかし、個々の盛土に関する必要な対策や行政上の措置は自治体によって異なるため、一律の対応が講じられたわけではない点に留意する必要があります。

そもそも、日本に存在する「造成地」について、そのすべてを網羅した「総数」を把握することは容易ではありません。

宅造法の許可・届出の対象外となる規模の造成まで含めると、その数は膨大だからです。

さらに、造成の時期や規模、造成方法も多様であるため、全国の造成地総数を示す統一的な公式統計は存在していないのです。

したがって、総点検が実施された箇所が日本に存在する造成地の何割にあたるのかすら、正確に把握できないのです。

それだけに、私たち不動産業者が造成地を取り扱う場合には、当該地が安全であるか否かを見極め、必要に応じて詳細を確認する必要があるのです。

とはいえ、当該造成地が「谷埋め型」「腹付け型」のいずれであるかや、工事が適切に実施されたか否かを説明すること自体は、現行の宅地建物取引業法では直接求められていません。

あくまでも、造成宅地防災区域や土砂災害警戒区域などに該当する場合、説明が義務付けられているに過ぎないのです。

しかし、土石流災害は、発生すれば人命を脅かすばかりか顧客の財産にも影響を与えます。

また、造成地のみならず、その下に存在する住宅などへも甚大な影響を及ぼします。

ですが消費者は、間取りや立地、土地面積、価格などについてはこだわりを見せる一方、危機管理については、それほど重視しない場合が多いのです。

だからといって、危険なエリアに存在する物件を紹介して良いという理屈は成り立ちません。

万が一の際、責任を問われる可能性があるのはもちろん、それ以前に、そのような物件を紹介した罪悪感に苛まれることでしょう。

本稿では、造成地に潜む危険な兆候をどのように察知すれば良いのか、そのためにどのような調査が必要であるかについて詳述します。

法定の説明事項だけで顧客の安全は確保されるのか

造成地を取り扱う際、まず正確に理解しておきたいのが、義務とされている重要事項の説明と、取引対象となる土地の安全性を確認するために行う「調査」を、同一視してはならないということです。

重要事項説明においては、都市計画法、建築基準法以外の法令に基づく制限として、当該宅地が「地すべり等防止法」「土砂災害防止対策推進法」などの指定区域に含まれる場合、もしくは造成宅地防災区域内、土砂災害警戒区域などに該当する場合、説明が義務付けられているのです。

つまり、重要事項説明においてこれらの区域に該当する事実を説明することと、当該土地の安全性を確認・保証することは、まったく別の問題だと言えるのです。

例えば、取引地が造成宅地防災区域内に存在していれば、顧客は安全性について質問してくるでしょう。

その場合、以下の3ステップで回答する必要があります。

Step1:指定の意味を説明する

造成宅地防災区域とは、これまでの法規制では対応が不十分であった危険な盛土等を包括的に規制するため、「宅地造成及び特定盛土等規制法」に基づき、都道府県知事などが指定した一団の造成宅地を要する区域です。

つまり、土地の用途にかかわらず、危険な盛土等を包括的に規制した区域なのです。

区域内の土地については、災害の防止に必要がある場合、擁壁等の設置や改造、地形・盛土の改良など、必要な措置について勧告や改善命令の対象となり得るとご理解ください。

ですが、指定されているからといって、「危険があるため住めない地域」という意味ではありません。

現時点では、個々の宅地について具体的な危険性や安全性を断定することはできないのです。

Step2:「個別の状態」と「行政の確認状況」を事実ベースで伝える

指定区域内において擁壁の補強や水抜き穴の整備、盛土の撤去などの災害防止措置が完了しているかどうかは、資料や行政への確認に加え、現地調査を実施しなければ判断できません。

また、調査前には行政がどのような見解を示しているのかを確認しておく必要があります。

そのうえで、例えば次のように説明すれば良いでしょう。

「現在行政からは特定の改善命令等が出されていません。

ただし、改善命令が出されていないことと、個々の宅地の安全性が確認されていることは同義ではありません。

地震や大雨に備える意味でも、定期的に擁壁の状態や水抜き穴の詰まりなどの点検・メンテナンスは必要です」

Step3:宅建業者による調査の限界を説明したうえで、専門家による調査へ誘導する

相応の知識を有していれば、目視によって異常や変状の有無を確認することはできます。

しかし、私たち宅地建物取引業者は土木のプロではありません。

したがって、「調査を実施しましたが、まったく問題は見受けられませんでした」などと、安全性を保証したと受け取られかねないような言動を、絶対にしてはならないのです。

専門家ではないと明確に言及したうえで、自治体などが公開している危険度マップや過去の点検履歴を提示し、必要に応じて専門家による地盤調査や擁壁診断の実施を推奨する必要があるのです。

例えば、次のような説明です。

「私たち不動産業者は建築・地盤の専門家ではありません。そのため、地震や豪雨に対する安全性を保証することはできないのです。お求めなら専門家をご紹介いたしますので、一度相談されてはいかがでしょうか」

このように、宅地建物取引業者が果たすべき役割は、専門家に代わって造成地の安全性を判定することではありません。

行政資料や重ねるハザードマップの「土砂災害マップ」、現地の状況などを確認し、顧客へ確認できた事実を正確に伝えたうえで、専門的な判断が必要な場合には、適切な専門家につなぐことです。

そして、このような考え方は造成宅地防災区域に指定されている土地だけに当てはまるものではありません。

地域や区域指定の有無だけで安全性を判断しないことなのです。

そこで次章では、造成地の安全性を考えるうえで理解を深めておきたい「谷埋め型盛土」と「腹付け型盛土」の特徴と確認すべきポイントにくわえ、擁壁の危険な兆候について見ていきましょう。

盛土の類型と滑動崩落の兆候

ご存じのとおり、造成地には盛土と切土が存在します。もっとも、大規模な造成地においては盛土と切土を併用していることが多く、必ずしもどちらか一方が単独で採用されているとは限りません。

これを踏まえたうえで比較すると、土を盛って宅地を造成する「盛土」に対し、山や斜面を削って造成する「切土」は、一般的に盛土と比較して地盤の変形が生じにくい傾向にあると言われています。

最大の理由は、長い年月をかけて自然に締め固まった元の地盤(地山)をそのまま利用して削り出したのが切土だからです。

一方の盛土とは、傾斜地などに土砂を盛り上げて平らな地表を作る造成工事を指しますが、その工法には主として「谷埋め型盛土」と「腹付け型盛土」が存在します。

まず「谷埋め型」は、谷や沢などの低地に、土や砂などを搬入して、谷底から順に盛土を行い平坦な土地を造成する工法です。

この工法は、広い平坦地を確保できるため、比較的土地の利用効率が高いというメリットがある一方で、元々の谷底に軟弱な地盤が残されてしまう可能性があります。

さらには、元来水が集まりやすい地形であるため、排水対策が十分でない場合には豪雨などによって盛土内の地下水位が上昇して安定性が低下する可能性があります。

その場合、地すべりや沈下、滑動崩落を引き起こしやすい状態となります。

大規模盛度造成地の滑動崩落対策について,谷埋め型盛度

「腹付け型盛土」は、既存斜面の側面に土を盛り付ける工法です。

盛土の下部や側面に擁壁や法面保護工などを設けることが多いため、盛土全体の厚みや傾斜地盤上の高低差が大きくなりがちといった特徴があります。

既存の地形を生かせるため、造成範囲を抑えられるといったメリットがある一方で、斜面の安定性を確保することが最も重要となります。

地山と盛土が確実に一体化するように設置面を階段状に削る「段切り」を行うと同時に、切土と盛土の境目に地下排水溝などを設けておく必要があります。

国土交通省の技術基準等でも、傾斜した地盤上に盛土を行う場合には、段切りによって盛土と地盤の密着を図り、滑動を防止することが示されています。

大規模盛度造成地の滑動崩落対策について,腹埋め型盛度

このように、谷埋め型・腹付け型のいずれにおいても、滑動崩落などによる斜面崩壊の可能性を低減させるためには、施工時の入念な締固めや適切な段切り、地下排水溝などによる排水対策は不可欠です。

特に、地震時や大雨時には盛土内部の地下水位上昇などによって盛土の安定性が低下し、滑動崩落などの変状が発生する可能性があるため、適切な維持管理や防災対策が極めて重要となります。

国土交通省は、大規模盛土の滑動崩落を予防するには地方公共団体が主体となって、変動予測調査を実施したうえで、必要に応じて危険箇所の滑動崩落防止工事を進めることが重要であるとしています。

その実現に向け「宅地耐震化推進事業」を推進すると同時に、「大規模盛土造成地の経過観察マニュアル」「大規模盛土造成地マップ」などを整備・公表しています。

また、国土数値情報として、地形や土地の成り立ちを確認するための資料も公開されています。

盛土・宅地防災

このような情報が公開されている以上、私たち宅地建物取引業者が造成地を取り扱う場合には、宅建業法で義務付けられた水害ハザードマップの提示や説明のみならず、国土交通省や自治体などから公表されている「大規模盛土造成地マップ」や地盤調査データを確認すると同時に、擁壁の健全性や排水処理の状況などを総合的に把握し、顧客へ漏れなく説明することが望ましいと言えるのです。

とはいえ、いたずらに不安を与えるようなことがあってはなりません。

重要なのは、公的な資料を確認すると同時に現地調査を実施し、両者を照合したうえで顧客に事実を説明することだからです。

そこで次章では、実務において活用したい急傾斜地の崩壊や土石流、地すべりの危険性をどのように調査するか、さらには現地調査で盛土や擁壁の滑動崩落に関する危険性をチェックするには、どのような点を確認する必要があるのかを、具体的に解説します。

公的資料から造成地の危険性を読み解く

造成地の安全性を確認するにあたっては、いきなり現地へ赴く必要はありません。

なにごとにおいても、事前準備が重要だからです。

もちろん、最終的には現地を自分の目で見て確認する必要があるものの、その前段階として、行政などが公開している公的資料をつぶさに確認し、当該地がどのような地形に位置し、従来はどのような地形であったのか、さらにはどのような災害リスクが想定されているのかを把握しておく必要があるのです。

これにより、何の予備知識もないまま現地へ行くよりも、確認すべきポイントを絞り込めるようになるからです。

そこで、まず確認したいのがハザードマップです。

もっとも利用しやすいのは、国土交通省・国土地理院が提供する「重ねるハザードマップ」です。

この地図は、土砂災害や洪水、津波などの災害リスクのみならず、造成地の調査についても非常に有用です。

ただし、国や都道府県が直接指定・管理する区域についてはデータの標準化とシステム連携が進んでいる一方で、市区町村が独自に調査・作成した情報については、GISデータとしての整備や登録状況にタイムラグやばらつきが見受けられます。

そのため、重ねるハザードマップで白地表示だからといって、リスクが存在しないと断定はできません。

特に、自治体が独自に作成・公表しているハザードマップには、重ねるハザードマップだけでは確認できない情報が掲載されている場合があります。

したがって、私たちが調査を行う際には「重ねるハザードマップ」と「自治体が作成・公表しているハザードマップ」の両方を確認すると同時に、「大規模盛土造成地」や「今昔マップ」など、得られる情報を漏れなく確認する必要があるのです。

札幌市大規模盛土造成地マップ

その際に重要なのが、ハザードマップを単に「危険区域に指定されているか否か」を確認するだけの資料として扱わないことです。

例えば、調査地が「土砂災害警戒区域」に指定されていたとしても、対象地の上方に急傾斜地が存在するのか、谷筋や渓流が存在するのか、あるいは地すべり地形に位置しているのかによって、確認すべき事項は異なります。

さらに、対象地そのものが指定区域に含まれていない場合でも、周辺の地形や上流側の土地状況によっては、リスクが懸念される場合があります。

先述したように、全国の造成地総数を示す統一的な公式統計は存在していません。

自治体による総点検が実施されたのは、大規模盛土造成地など、一定の条件から抽出された箇所を中心とした一部に過ぎないことを忘れてはならないのです。

「ハザードマップに掲載されている=直ちに危険」という認識も適切とはいえませんが、私たちが目指すのは、あくまでも顧客の生命と財産を守ることです。

それだけに、掲載されていればさらなる調査を実施する、掲載されていなくても今昔マップなどで危険性が高いと考えられる場合には調査を実施するという姿勢こそが、何より大切だと言えるのです。

現在は平坦な住宅地になっている土地であっても、過去の地形図や航空写真などを確認すると、従前は谷や沢、斜面などであったことが確認される場合があります。

このように過去の地形まで確認すれば、「なぜこの場所が現在平坦なのか」という疑問が生まれるでしょう。

その疑問を解消することが、結果的に顧客の利益に繋がるのです。

もちろん、地図や航空写真だけで造成方法を断定することはできません。

自治体などが公開している資料から、行政上の対応履歴などを確認する必要があります。

例えば、対象地について許可・届出が行われているかは基本ですが、さらには変動予測調査が実施されているか、擁壁や排水施設などについて防災対策が講じられたかといった情報は、極めて貴重です。

これらの情報は、自治体のウェブサイトだけでは確認できない場合があります。そのため、管轄部署への問い合わせや、公開されている範囲で過去の資料や行政上の対応状況を確認する作業が必要になるのです。

机上調査の順番は自由ですが、オフィスで実施できる①各種ハザードマップの確認、②造成前の地形確認、③切土・盛土のいずれによる造成であるかの推測、④大規模盛土造成地に該当しているかの確認を行なった後に役所調査へ赴くのが、合理的な流れではあるでしょう。

造成地,調査,机上調査,現地調査

例えば、過去の地形から「谷埋め型盛土」の可能性が高いと考えられるのであれば、現地においては周辺地盤との境界や排水施設などを重点的に確認するなど、資料に基づく「仮説」を立てておけば、現地で何を見るべきなのかが明確になるのです。

公的資料から得られた情報と、実際に現地で確認した状況を照合し、両者に食い違いがあればその理由をさらに調査する。

こうした積み重ねこそが、造成地の安全性を確認するうえで重要であり、不動産取引のプロフェッショナルに求められる調査だと言えるのです。

現地調査で確認すべき造成地の危険な兆候

机上調査と役所調査が終わったら、いよいよ現地へ赴きます。

現地調査で重要なのは、「何か異常がないか」という漠然とした視点で現地を見るのではなく、前章までの調査によって得られた情報や仮説を念頭に置きながら確認をすることです。

まず確認すべきは、対象地の地盤そのものに生じている変状です。

特に、「不同沈下」の兆候が見受けられないかについては確認を要します。

不同沈下は、主に宅地の地盤強度や締固めの状態が不均一であることなどを原因として、地盤が局所的に沈み建物などが傾く現象です。

何年もかけて沈下が進む場合もあれば、地震時の液状化などで急激に発生する場合もあります。

特に、液状化マップで可能性が指摘されているエリアについては、入念に確認する必要があるでしょう。

とはいえ、地盤内部の状態を確認することはできませんから、外形的な兆候をチェックします。

例えば、住宅の基礎や外構、舗装面、擁壁などに不自然なひび割れや段差、沈下がないかを確認するのです。

我が家の宅地安全マニュアル,外壁のひび割れ

不同沈下の初期段階ではモルタルの外壁や犬走りに影響が見られ、沈下が進んでいると基礎のひび割れなどが確認できるようになります。

また、前面道路の地盤が液状化して多数のひび割れが発生している、側溝の継ぎ目がズレているといった兆候も見受けられるようになります。

このような兆候が随所に見受けられる場合には、液状化など地盤に何らかの問題が生じている可能性を疑う必要があります。

しかし、表面調査だけを根拠に断定することはできません。

地盤の状態を確認するには、地盤調査が不可欠だからです。

そのため、兆候が確認される場合には、物件所有者に対して地盤調査を推奨するなどの配慮が必要となるのです。

取引対象が土地であれば、建物を建築する前に地盤調査が実施され、地盤改良工事などが実施されますが、すでに建物が建っている場合には、基礎補強や鋼管杭圧入工法などによる対策が必要となる場合があります。

我が家の宅地安全マニュアル,基礎の補強

どのような対策方法が最適かを判断するのは建築士を始めとする専門家ですから、私たち宅地建物取引業者が具体的な対策方法まで不必要に提案する必要はありません。

ですが、専門的な対策を講じることによって液状化による被害を軽減できる可能性がある点については、理解を深めておく必要があるでしょう。

対象地の確認が終わったら、次は「擁壁」を確認します。擁壁には、重力式の鉄筋コンクリート擁壁や間知ブロック積擁壁など数種類の工法が存在しますが、特に注意が必要とされるのが下記で示した「空積み擁壁」や「増し積み擁壁」などです。

我が家の宅地安全マニュアル,擁壁

これらの擁壁は、構造や施工方法によっては、現在求められている安全性を満たしていない可能性があるため、注意が必要です。

さらに、撤去や再構築には高額な費用が必要とされるため、場合によっては取り扱いそのものを慎重に検討するという選択肢も成り立ちます。

これは、擁壁が敷地内に含まれている場合の管理責任は所有者にあるため、万が一にでも擁壁が崩壊して他者の人命や財産に損害を生じさせた場合には、損害賠償責任が発生する可能性があるからです。

また、外形的には現行基準を満たしている鉄筋コンクリート擁壁などであっても、ひび割れや目地のズレなどが生じている場合には、強度や安定性が不足している可能性があるため注意が必要です。

我が家の宅地安全マニュアル,コーナー部でのひび割れ

現地調査については、擁壁や建物の表面的な変状チェックに加え、それらを生じさせた原因の一つである「滑動崩落」についても、あらかじめ留意しておく必要があります。

擁壁が適切な状態であり宅地の地盤が強固であったとしても、滑動崩落によって盛土全体が滑り落ちれば、意味をなさないからです。

我が家の宅地安全マニュアル,滑動崩壊後

大規模な盛土の滑動崩落リスクを、外見から正確に判断することはできません。

さらに、滑動崩落を防止するためには、地下水の水抜きやアンカー工による地盤補強など、造成地全体の改良を伴う大掛かりな工事が必要となる場合があります。

滑動崩壊防止工事イメージ

これらの工事を実施するには、費用面もさることながら、盛土内の住民による合意形成が不可欠とされるため、実現が容易とは言えません。

したがって、土砂災害特別警戒区域に指定されている物件については、区域指定の内容や建築・利用上の制限、災害リスクなどを十分に確認したうえで、取り扱いの可否を慎重に判断する必要があるでしょう。

いずれにしても、私たちが現地で確認できるのは目視できる範囲に限られます。

兆候を見て取ることはできますが、盛土内部の地盤状況や地下水の状態、厳密な意味での擁壁構造や基礎の安全性などについては、専門的な調査を行わなければ判断できない場合があります。

したがって、机上および現地調査の結果をもって断定するのではなく、売主や買主にその事実を伝えたうえで、必要に応じて建築士や地盤・擁壁などの専門家による調査を提案するのが、適切な対応だと言えるでしょう。

自らの専門領域と限界を理解したうえで、必要に応じて専門家へつなぐことこそが、不動産取引のプロフェッショナルとして重要な役割だからです。

まとめ

造成宅地防災区域など法令上の説明事項に該当する場合を除けば、「大規模盛土造成地」である旨の説明や、擁壁に関する安全性について、宅建業法上の調査・説明義務が一律に課されているわけではありません。

目視による外観確認と、公的資料・行政へのヒアリングを実施したうえで確認できた事項を適切に説明することが、宅建業者としての基本的な対応だからです。

しかし、机上調査や現地調査の精度が低ければ、必ずしも正確な情報を顧客に伝えられたとは限りません。

私たちには、顧客が購入するか否かについて適切に判断できるだけの情報を、可能な限り正確に伝えることが求められているからです。

そして、それこそが顧客の生命と財産を守ることにつながるのです。

確かに、限られた時間内でどこまで調査すべきかといった問題は常につきまといます。

宅建業法で求められる要件を満たすだけであれば、本稿で解説したレベルの調査は、時間効率が悪すぎると考える方もいらっしゃるでしょう。

ですが、私たちにとっては数多くの取引の一つに過ぎないとしても、顧客にとっては一生に一度限りの取引かも知れないのです。

だからこそ、法定の説明事項だけを確認して終わらせるのではなく、「この土地にはほかに確認すべきリスクはないか」という視点を持つことが重要なのです。

公的資料から土地の成り立ちや災害リスクを把握し、役所調査によって必要な情報を確認する。

そして、現地で擁壁や排水施設、地盤などの状態を自ら確認し、判断が難しい場合には専門家へとつなぐ。

こうした一つひとつの調査を積み重ねることは、単に宅建業法上の義務を果たすためだけではありません。

顧客がその土地を購入するかどうかを適切に判断するための材料を提供し、結果として生命と財産を守ることにつながるのです。

造成地を取り扱う場合に求められるのは、危険を断定することでも、安全を保障することでもありません。

公的資料と現地の状況を丁寧に確認し、確認できた事実と調査の限界を正確に伝えることです。

「知らなかった」では済まされないリスクがあるからこそ、法定義務の先にある「調べる姿勢」を持つことこそが、不動産取引のプロフェッショナルとして顧客と向き合うために不可欠な姿勢ではないでしょうか。

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