【情報通では終わらない】顧客から選ばれるための『共感力』『把握力』と『倫理力』の磨き方

【情報通では終わらない】顧客から選ばれるための『共感力』『把握力』と『倫理力』の磨き方

インターネットやSNS、生成AIの普及により、物件情報や税制、不動産関連法規、さらには市場の適正相場に至るまで、顧客自身でも容易に調べられる時代になりました。

誰もが必要な情報へ短時間でアクセスできるようになり、知識へのアクセスコストが大幅に下がった結果、「知っている」といった程度の知識では優位性を発揮しにくくなりました。

そのため、不動産営業には単なる知識量ではなく、より深い理解と、プロフェッショナルならではの視点から複雑な情報を顧客に対して分かりやすく説明する能力が、ますます求められているのです。

したがって、これからの不動産営業は「知識量」を頼りとするのではなく、顧客自身がまだ言語化できていない本質的な課題や潜在ニーズを見抜く『把握力』と、顧客が抱える課題を自分事として捉える『共感力』、さらには目先の利益に流されることなく顧客の利益を最優先に考えて行動する『倫理力』を磨くことがこれまで以上に重要だと、筆者は考えています。

情報があふれる時代だからこそ、顧客は悩みます。

その理由は情報が不足しているからではありません。

むしろ、得られる情報が多すぎることによって、顧客は何を信頼し、何を優先すべきかについて悩んでいるのです。

例えば、「分譲マンションを購入する際に注意したいポイント」をインターネットで検索すれば、数万件もの情報が検索できるでしょう。

ハザードマップの確認や周辺環境の将来像、資金計画、管理組合の運営状況や修繕履歴、修繕積立金の積立状況をはじめ、専有部分のチェックポイントなど、様々な情報が得られます。

これらのポイントはいずれも購入を検討するにあたり確認しておきたい重要な事項です。

しかし、得られた情報のすべてを同じ重みで受け止めれば、不安ばかりが先行し、適切な判断ができなくなってしまいます。

ハザードマップを例に挙げれば、重大なリスクが示されていないのであれば必要以上に不安視するのではなく、避難経路や最寄りの避難場所を確認する程度で十分なケースも少なくありません。

ハザードマップ

にもかかわらず、老朽化した上下水道管による大規模な道路陥没のように、発生する可能性が低い事象まで気にし始めれば際限がありません。

とはいえ、不安を抱える顧客に対して、いきなり正論や客観的なデータを示しても、本当の安心にはつながりません。

まずは顧客が何に不安を感じているのかを受け止め、その思いに寄り添う姿勢が求められます。

そこで重要となるのが『共感力』です。

顧客の不安が、2025年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故の報道映像や画像を見たことが原因であると分かれば、客観的なデータを示したうえで、次のように説明するのが有効かもしれません。

「確かに、道路の陥没は年間1万件前後発生していると国土交通省が発表しているものの、その大半は50cm未満の浅い陥没です。自治体では古い配管の調査を重点的に実施しており、その調査結果を見る限り、当該物件の周辺で老朽化が懸念される配管があるとは報告されていません」

道路陥没発生件数の内訳

このように、情報があふれる時代だからこそ、顧客が本当に求めているのは「情報そのもの」ではないのです。

得た情報をどのように解釈し、自分たちの状況にどのように当てはめ、どのような判断をすればよいのかを分かりやすく説明し、意思決定を支えてくれる、いわば「伴走者」の存在です。

そして、伴走者であるために特に重要なのが、『共感力』、『把握力』、『倫理力』です。

本稿では、営業としての価値を生み出すこれらの能力について解説するとともに、現場で実践するための磨き方について考察します。

「情報を持つ営業」から「情報を整理する営業」へ

不動産営業に限らず、従来、営業は顧客よりも多くの情報を持っていること自体が強みでした。

いわゆる、顧客とプロとの間に存在する「情報の非対称性」です。

不動産取引に関して言えば、物件情報や取引事例、住宅ローン制度、不動産関連法規などを体系的に調べられる手段が限られていたため、それらの知識を持つ営業担当者の存在価値は非常に高かったのです。

ところが現在は、インターネットの普及によって状況が大きく変わりました。

不動産ポータルサイトを利用すれば、希望条件に近い物件は瞬時に検索できますし、住宅ローンの返済シミュレーションも簡単に行えます。

これは、不動産関連法規や税制に関しても同様です。

難解な制度や用語についても、生成AIを利用すれば要点を整理した一定水準の回答を提示してくれるようになったからです。

その結果、多くの顧客が一定レベルの知識を身に付けた状態で初回相談に訪れるようになりました。

もちろん、知識量や理解力には個人差がありますし、何も検索しないまま、まっさらの状態で相談しにくる方もいるでしょう。

もっとも、インターネットで検索された内容や生成AIによる回答が必ずしも正しいとは限りませんし、確証バイアスによって、自身に都合が良い情報だけを集めている可能性も懸念されます。

とはいえ、インターネットで検索できるような内容をなぞるだけの説明では、顧客からの信頼を得ることが難しい時代になったのは事実です。

現在は知識そのものよりも、「状況に応じて必要な情報を取捨選択し、優先順位を整理したうえで説明する能力が求められている」といえるでしょう。

顧客にとっての「最適解」を導き出し、提案することが営業の新たな役割となったのです。

最適解を導き出すためには、顧客が口にした希望条件を鵜呑みにせず、その背景にある価値観や不安、さらには本人自身も気づいていない潜在的なニーズを理解するように努めなければなりません。

そのためには、まず顧客との信頼関係を築く必要があります。

そして、その第一歩となるのが「共感」です。

しかし、顧客を深く理解し、その思いに共感するためには、その前提として「傾聴」が不可欠です。

傾聴は、顧客の潜在的ニーズを引き出すうえで重要なテクニックであるため、営業研修などでも繰り返し取り上げられています。

傾聴の具体的なテクニックには、次のようなものがあります。

①バックトラッキング:相手が話した言葉を、そのまま繰り返す方法
②感情のラベリング:相手の気持ちを具体的な言葉で表現する方法
③ペーシング:相手の話すスピードや声のトーンに合わせながら対話する方法
④オープン・クエスチョン:「はい」や「いいえ」では答えられない質問をする方法

共感を深める傾聴の基本の基本テクニック

これらはあくまでテクニックに過ぎません。

しかし、その目的は相手をより深く理解するために質問し、その答えを傾聴し、共感につなげることです。

つまり、傾聴とは単に相手の話を聞く技術ではなく、相手を理解し、共感するための手段なのです。

そして、傾聴を通じて顧客への理解と共感を深めることで、本音や潜在的ニーズを把握できるようになります。

その積み重ねこそが、本稿の主題である『把握力』の土台となるのです。

顧客が「要望」を話しているとは限らない

例えば顧客から、「〇〇駅から徒歩10分圏内で、〇〇万円以下のマンションを探しています。

できれば、3LDK以上で」と要望を伝えられれば、その条件に合致する物件をレインズで検索するでしょう。

もちろん、間違いではありません。

しかし、「なぜその条件を希望しているのか」という背景を知らなければ、物件情報を提供しただけ、あるいは内見を実施しただけで終わる事態になりかねません。

そもそも、「駅から徒歩10分圏内」という条件一つをとっても、その理由が通勤時間の短縮なのか、買い物の利便性を重視したのか、あるいは学区へのこだわりなのか、資産性を重視した判断なのかは分かりません。

仮に資産性を重視しているのであれば、再開発計画や人口動態、周辺の供給状況を勘案した結果、同じ予算でも他のエリアの方が将来的な資産価値に期待が持てる可能性もあります。

また、「子どもの送迎負担を減らしたい」ことが目的であれば、駅からの距離ではなく、学校や保育施設までの動線を基準に物件を検討した方が、より満足度の高い住まいに出会えるかもしれません。

つまり、顧客が口にする条件は「最適解」ではなく、あくまでも「手掛かり」に過ぎないことが多いのです。

したがって営業の役割は、「顧客が示した手掛かりを基に質問を重ね、顧客自身もまだ明確に言語化できていない本当のニーズを把握すること」と言っても過言ではありません。

しかし、質問の目的は、自分が勧めたい物件へ誘導することではありません。

そのような意図は、顧客に違和感として伝わりますし、営業担当者の思い込みや経験だけで判断すれば、本来顧客にとって有益だった選択肢を狭めてしまう危険もあります。

そのような事態を防ぐために重要なのが『共感力』です。

そもそも共感とは、顧客の要望に無条件で賛成することではありません。

「なぜ、その条件を希望しているのだろう」「なぜ、過剰とさえ言える不安を感じているのだろう」という背景を理解しようと努め、その価値観や感情に寄り添う姿勢こそが『共感力』の本質です。

だからこそ、営業担当者は顧客の言葉だけではなく、その言葉の裏側にある経験や価値観、不安などを理解するように努め、顧客自身が気づいていなかった潜在的なニーズを引き出すことに尽力するのです。

顧客の価値観を深く理解できれば、経験や知識を駆使しながら、顧客にとっての最適解を共に追求する伴走者となれるのです。

このように、共感によって顧客の価値観や本音を理解し、それらを整理・分析したうえで顧客にとっての最適解を導き出す力こそが、本稿でいう『把握力』です。

そして、その『把握力』の土台となるのが『共感力』なのです。

『把握力』に価値を与える『倫理力』

インターネットや生成AIの普及によって、「知識そのものの価値が低下した」と語られることがあります。

しかし筆者は、知識の価値が失われることは決してないと考えています。

むしろ、インターネットや生成AIが普及したからこそ、より正確な知識が必要になったとさえ考えているのです。

確かに、ここまで述べてきたように、これからの不動産営業に求められるのは単に多くの知識を持つことではなくなりましたし、生成AIが知識不足による弊害を補えるようになったのも事実です。

しかし、生成AIの回答には「ハルシネーション(もっともらしい誤った回答)」が含まれていることも少なくはないため、その妥当性を見極めるためにも確かな知識と経験は欠かせません。

さらに、回答があまりにも一般的すぎて、実務ではそのまま利用できないという点も懸念されます。

何より、難解な内容を顧客に対して分かりやすく説明するためには、正確な知識と深い理解が欠かせません。

さらに、知識を状況に応じて適切に取捨選択し、顧客にとって価値ある形へと変換する能力の重要性は以前にも増して高まっています。

つまり、今後も知識は営業にとって不可欠な土台であり続けるのです。

ただし、知識はそれ単体では価値を生み出しません。

顧客の価値観や置かれた状況を理解し、その人に合った形で整理・解釈したうえで、最適な提案へ結びつけてこそ、知識が価値を生むのです。

そして、その役割を担うのが本稿で繰り返し述べてきた『把握力』です。

顧客ごとに、不動産を購入・売却しようと考えた背景や家族構成、債務の状況、将来設計、さらには心理的なハードルまで異なります。

そのような顧客に対し、マニュアル通りの知識を提供するだけであれば生成AIで代替できるものの、顧客の潜在的なニーズや不安を「把握」し、どの知識を組み合わせて活用すべきかという判断は、人間にしか行えません。

つまり、『把握力』とは知識を価値へと転換する触媒であり、人間にしか備わっていない能力なのです。

しかし、それだけに『把握力』の行使には注意すべき側面があります。

それは、顧客の利益にも営業担当者や会社の利益にも利用できてしまうという点です。

言い換えれば、『把握力』は使い方次第で、意図的に「利益相反」を生み出すことができるのです。

顧客の心理的・知識的な弱点を正確に把握すれば、「今契約しなければ他のお客様に先を越されてしまいます」といった不当な煽りや、利益が最も大きい物件へ誘導(例えば両手仲介となる物件を優先的に提案すること)も可能になります。

だからこそ、『把握力』には、それを正しく使うための『倫理力』が不可欠なのです。

不動産実務では、あえて「今回は購入を見送った方が良いかもしれません」と顧客へ助言すべき場面があります。

様々な事情を総合的に勘案したうえで、それが顧客にとって最善の選択だと判断した結果です。

例えば、金融機関の審査基準では希望額の融資を受けられる可能性が高いとしても、家計の状況や今後のライフイベントを考えれば、返済計画が将来的に破綻するリスクが高いと判断される場合です。

「返済に困窮するのは顧客自身の問題で、私たちには何も責任がない」と主張されれば、確かにその通りです。しかし、私たちは不動産のプロフェッショナルです。

将来的に返済計画が破綻する可能性の高い場合には、「購入される物件の価格帯を、もう一度検討されてはいかがでしょうか。と申しますのも、今後、金利が上昇する可能性は否定しきれませんし、管理費や修繕積立金の改定、固定資産税の負担も含めて考慮すると、将来的な家計への影響が小さくありません」と説明し、購入を急がせるのではなく、顧客が将来にわたって安心して暮らせる選択肢を提示するのです。

これこそが、本来あるべき営業の姿です。

そして、『把握力』によって導き出した最適解を、『倫理力』によって顧客の利益に用いるということです。

把握力を価値に変える「論理力」とは

倫理力とは、単に法令や社内ルールを守ることではありません。

顧客の利益と自らの利益が相反する場面においても、常に顧客にとって最善の選択を優先しようとする姿勢そのものです。

企業活動である以上、利益の確保は不可欠です。

しかし、その利益は顧客や社会に対する価値提供の結果として得られるものでなければなりません。

二宮尊徳は、『道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である』と述べました。この言葉は、経済活動の本質を示しています。

家計が破綻する可能性が極めて高い物件を媒介しても、それによって私たちが罪を問われる可能性はおそらく皆無でしょう。

極端な言い方をすれば、専門知識を持つものが、知識の乏しい相手を誘導することは、容易とさえ言えるのです。

しかし、自らの道徳心を欺くことはできません。

何より、情報があふれる時代になった今、営業担当者の価値は「何を知っているか」ではなく、「顧客をどれだけ深く理解し、その理解を誰のために、どのように使うのか」で評価されるようになりました。

だからこそ、『共感力』によって顧客を理解し、『把握力』によって最適解を導き出し、『倫理力』によってその力を常に顧客利益のために用いる姿勢が求められるのです。

そして、この三つがそろってこそ初めて、不動産営業が単なる情報提供者ではなく、顧客の人生に寄り添う真の伴走者となれるのです。

まとめ

本稿で述べたように、インターネットや生成AIが今後どれだけ進化しようとも、顧客の不安に『共感』し、顧客自身すら認識できていない真のニーズを『把握』したうえで、常に顧客の利益のために提案を行う『倫理力』を代替することはできません。

確かに、インターネットや生成AIの普及によって、不動産業者に求められる知識や業務内容は変容しました。

しかし、それによって得られる恩恵は、情報の取得や書類作成などの負担が軽減されたに過ぎません。

営業に求められる本質は変化していないのです。

しかし、こうした利便性の向上によって、不動産営業に求められる役割は、単なる情報提供者ではなくなりました。

顧客の人生に真摯に向き合う「唯一無二の伴走者」であることが、これまで以上に求められるようになったのです。

情報があふれる今だからこそ、私たち不動産業者は『共感力』『把握力』『倫理力』を磨き続け、顧客から選ばれる真のプロフェッショナルを目指す必要があるのです。

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監修者情報

H.L.C不動産コンサルティング 奥林洋樹
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