【マンション修繕談合を受け、国土交通省が初会合】大規模修繕の発注はどう変わるのか

【マンション修繕談合を受け、国土交通省が初会合】大規模修繕の発注はどう変わるのか

国土交通省はマンションの大規模修繕工事を巡る談合事件が発生したことを受け、管理組合が留意すべき事項や、マンション大規模修繕工事に係る適切な事業者の確保に向けた方策等について議論するため、「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」を設置し、その初会合を2026年10月19日に開催しました。

本検討会は、株式会社リノシスコーポレーションおよび株式会社翔設計に管理組合が設計コンサルタント業務を委託した上で発注された大規模修繕工事について、公正取引委員会が2026年9月28日、施工業者らに対して独占禁止法の規定に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を発したことを契機に設置されたものです。

違反事業者数、排除措置命令及び課徴金納付命令の対象事業者ならびに課徴金額

今回、公正取引委員会が独占禁止法違反を認定した事業者は、リノシスコーポレーションに係る事案と翔設計に係る事案を合わせて延べ57社(実数42社)に上ります。

しかし、この数だけをもって、今回の事件が業界全体の実態を示していると判断することはできません。

むしろ、今回明らかとなった事例を契機に、同様の問題が他にも存在しないかを検証する必要があるからです。

その理由は、次に挙げる3点に集約されます。

第一が、今回の摘発対象が関東地区(1都6県)の事例に限定されている点です。

今回の事件において公正取引委員会が調査・認定したのは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県及び群馬県など関東地区に所在するマンションに関する事例です。

他地域における大規模修繕工事の発注実態が本件の調査対象となったわけではありません。

それだけに、他地域で同様の構造が存在する可能性は否定できないのです。

第二が、設計コンサルタント業界そのものの実態把握が困難な点です。

そもそも、マンション大規模修繕工事の設計・監理を担う事業者として法律上、「設計コンサルタント」という業務名称に対応した特定の国家資格は設けられていません。

建築士法上の「設計」や「工事監理」に該当する業務を行う場合には、その規模や内容に応じて建築士資格などが関係するものの、「設計コンサルタント」という呼称そのものに一律の資格要件や登録制度が設けられているわけではないのです。

それだけに、マンション大規模修繕工事に携わる設計コンサルタントについて、どのような事業者が、どの地域で、どの程度の件数を手掛けているのかを一律に把握することが容易ではないのです。

この点は、今回の事件を考えるうえで極めて重要です。

施工業者であれば建設業法に基づく許可制度があり、建築士であれば建築士法に基づく資格制度があります。

しかし、「設計コンサルタント」という業務については、先述したとおり登録制度等が存在していません。

それだけに、管理組合は専門家として選定した相手が、どのような実績、専門性、利害関係を有しているのかを個別に確認する必要があるのです。

しかし、それ自体が容易なことではありません。

第三が、マンション管理組合の専門知識の不足と設計コンサルタントへの依存です。

マンションの住人らで構成される管理組合は知識やノウハウが不足していることが多いため、専門的な知識を有する設計コンサルタントに、工事へ向けた調査や設計、工事監理、施工会社の選定支援などを委託する、いわゆる「設計・監理方式」が採用されるケースは多いと考えられます。

これは、国土交通省による「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」において、200社から収集された818件の工事事例のうち80.1%で、「設計・監理方式」が採用されていることからもうかがえます。

筆者は、三番目に挙げた専門知識の不足が、設計コンサルタント会社につけ込まれる余地を生じさせる一番の要因だと考えています。

しかし、管理組合を代表する各理事が、必ずしも大規模修繕に必要とされる工事の内容や適正価格に精通しているとは限らないのですから、これは致し方ありません。

それだけに、設計・監理を委託される設計コンサルタントにモラルが求められるのです。

実際、国土交通省は今回の事件以前から、設計コンサルタントと施工会社の利益相反について注意喚起を行っています。

これは、2017年(平成29年)に「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」との通知を、公益社団法人マンション管理センターなどの団体に発出していることからも分かります。

設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について,現状の課題

同通知では、管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘されると同時に、具体的な事例も提示されています。

例えば、最も安価な見積金額を提示した設計コンサルタントに依頼したところ、実際に調査診断や設計を行っていたのは施工会社の社員であることが発覚した、次のような事例です。

設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について,指摘されている事例

この事例では、同コンサルタントが提示したパンフレットに記載されている所属技術者は同社に存在しておらず、社員は社長と事務員の2名であったことが発覚しています。

もっとも、筆者の知る限り、各区分所有者がそれまで積み立てた修繕積立金を無駄なく、最大限活用した大規模修繕工事の提案を、真摯に行っている設計コンサルタント会社は数多く存在しています。

しかし、今回のような談合事件や不適切な対応事例が報じられるたびに、優良な設計コンサルタント会社に対しても少なからず疑いの目が向けられるのです。

だからこそ私たち不動産業者は、本件を例に挙げて「設計コンサルタントは信用できない」という単純な思考に陥ってはなりません。

まずは管理組合の利益を守るべき立場にある設計コンサルタントが、どのような仕組みの中で施工会社の選定に関与しているのか、さらには管理組合が、その過程や工事・見積内容をどの程度理解し、確認していたのかを知る必要があるのです。

本稿では、独占禁止法の規定に基づく排除措置命令がなぜ発せられたのか、今回の事件でどのような受注調整が行われていたのか、その構図を具体的に解説すると共に、管理組合から大規模修繕工事について相談された際、不動産会社としてどのようなアドバイスをすれば良いのかについて検証したいと思います。

談合事件の構図

談合事件の構図は、公正取引委員会の調査によって明らかにされています。

具体的には、設計コンサルタント会社と協力関係にある施工業者のグループがあらかじめ協議をしたうえで、大規模修繕工事ごとに受注予定者を決定し、次のような行為を行っていました。

  1. 受注予定業者は、あらかじめ設計コンサルタント会社との協議を経るなどして見積価格等を決める。
  2. 受注予定者以外の施工業者は、受注予定者等から連絡された見積価格を管理組合に提示する、または見積合わせ等に参加しない。
  3. 設計コンサルタント会社は、設計コンサル業務の過程で入手した設計予算等に係る情報を受注予定者に提供すると同時に、受注予定者の意向を踏まえて設計コンサル業務を行う。

このような約束事があるのを知らない管理組合からは、複数の施工業者から見積りが提出され、その中から最も有利な条件を提示した施工業者を選んだという、一般的な大規模修繕工事の発注手続きを行ったように見えるでしょう。

しかし、実際には見積りが提示される前の段階で、すでに施工業者間で受注予定者が決められており、さらには受注しない施工業者も、受注予定者の受注を容易にするための行為に関与していたのです。

公正取引委員会「本件の概要」,受注予定者の決定,受注予定者が受注できるようにする行為

もし、管理組合の理事に大規模修繕工事の内容や施工金額などに精通した方がおられるなら、各社から提出された見積内容を不審に思い、自ら別の施工業者を探して見積りを依頼していたかもしれません。

実際、これに類似する取組事例を、国土交通省が公開しています。

設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について,取組事例

事例のように、たとえ「設計・監理方式」を採用していたとしても管理組合が主体となり、施工業者を公募方式など透明な形で募集していれば、受注調整を発見できた可能性はあるでしょう。

しかし、大規模修繕工事の専門性に加え、施工業者の選定過程や設計コンサルタントと施工業者の関係を、管理組合が十分に把握することは困難です。

管理組合と設計コンサルタントの間には、専門知識だけでなく、情報量にも大きな格差があるからです。

加えて、管理組合の各理事はその大半が仕事を持っていますから、理事としての活動に割ける時間も限られています。

本来、このような知識の不足や情報格差、管理組合各理事の負担などをサポートするのが設計コンサルタントの役割です。

それだけに、管理組合員全体の利益に寄与するための高い倫理観と公正性が求められます。

また、2026年10月21日付け朝日新聞などの報道によれば、談合に加わっていた工事業者の社員が「マンション管理会社にも金銭を払っていた」と証言したとされています。

事実関係については新たな報道を見るほかありませんが、仮にこうした金銭の授受が事実であれば、管理組合の発注に関与する事業者との関係についても、利益相反の有無を確認する必要が生じるでしょう。

いずれにしても、今回の事件は設計コンサルタント自身が管理組合の信頼を裏切るという、設計コンサルタントに対する社会的な信頼を損なう結果を招いたのです。

管理組合が確認すべきポイント

新たに設置された「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」の第一回議事次第は、次のようになっています。

マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会,議事録

議事概要については後日掲載予定とされており、本稿執筆時点では公開されていません。

しかし、管理組合にとって参考となる検討会資料は、すでに公開されています。

その中で、筆者が特に参考にすべきだと考える取組を紹介します。

①「談合違約金特約条項」を盛り込む

マンション修繕工事に係る請負契約書に、談合違約金特約条項を盛り込むことは、2025年6月に事務連絡という形で(公財)マンション管理センター、(一社)マンション管理業協会、(一社)日本マンション管理士会連合会、NPO法人全国マンション管理組合連合会、(一社)マンション計画修繕施工協会及び(一社)全国マンション改修設計コンサルタント協会などの関係団体に対し発出されています。

しかし、国土交通省が導入を推奨してからようやく1年を経過したばかりのため、実際に盛り込まれているかどうかの検証は行われていません。

ちなみに、推奨される違約金特約条項の例は次のようなものです。

マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会,違約金特約条項の例

条項を盛り込む際に悩むのは、具体的な違約金の額だと思われます。しかし、工事規模や相手方との関係によって変わるため一律に論じることはできません。

もっとも、国土交通省による直轄工事の特約条項では請負代金の10分の1に相当する額とされているため、一つの参考として10%を念頭に検討することは考えられます。

もちろん、特約を盛り込んでいなくとも、談合により不利益を被った場合には「債務不履行による損害賠償(民法第415条)、「不法行為による損害賠償請求(民法第709条)などを根拠として損害賠償を求めることは可能でしょう。

しかし、実際の損害額を立証しなければならないなど管理組合側の負担が大きくなるため、請負契約書に具体的な違約金の額を盛り込んでおく方が、速やかに問題を解決できる可能性は高まるでしょう。

②見積費用確認サービスを利用する

(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル)では、2010年から無料で契約前の見積書等をチェックするサービスを実施しています。

マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会資料,見積書等をチェックするサービス

相談をすれば、もっとも知識が必要とされる工事内容の適正性や数量、単価などをチェックしてもらえるのですから、大いに利用すべきでしょう。

また、基礎情報を入力する手間は必要となりますが、住宅金融支援機構が無料で提供している「マンションライフサイクルシミュレーション(長期修繕ナビ)」を利用すれば、建物規模、築年数などに応じたマンションの「平均的な大規模修繕工事費用」、今後40年間の「修繕積立金の負担額」、「修繕積立金合計の収支」などを試算することができます。

マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会資料,情報入力

筆者も、必要に応じてこのソフトを度々利用させてもらっていますが、入力する基礎情報も30項目程度ですから、それほど手間でもありません。

にもかかわらず、参考となる情報が得られるのですから、積極的な活用をお勧めします。

③マンションに係る専門家への相談

国土交通大臣の登録を受け、専門知識をもって管理組合の運営や管理についての相談に応じてくれるマンション管理士などへの相談も有効です。

ただし、先述した事件では本来、管理組合の利益に貢献すべき立場の設計コンサルタントが談合を主導し、さらには真偽が明らかではないものの、管理組合ともっとも近しい立場であるはずの管理会社が、利益相反となる金銭を受領したと報じられています。

マンション管理士を同列に論じることはできませんが、信頼できる専門家を見極める目が、管理組合には求められます。

管理組合から相談を受けたら

媒介業者は不動産取引の専門家ですが、だからといって建築に精通しているとは限りません。

したがって、管理組合から大規模修繕についての相談を受けた場合、「大規模修繕工事の適正性や数量、単価などについては専門外ですから、申し訳ありませんが相談には応じられません」と断っても、なんら問題はありません。

むしろ、専門外であることを明言し、迂闊に相談に応じない姿勢こそが大切な場合もあるのです。

しかし、一般の方は媒介や建築を一括りとして不動産関係と認識している場合も多いため、「相談に応じてくれない=知識が不足している」と捉えられてしまう場合があるのも事実です。

だからといって、相談を断ることと、相談者を突き放すことを同列に考えることもお勧めできません。

不動産業者自身が大規模修繕工事の適正性を判断できなくとも、管理組合が何を確認し、どのような専門家に相談すべきかをアドバイスすることは、十分に可能だからです。

例えば、「依頼した設計コンサルタントを信頼しても良いか」といった相談を受けたのなら、どのような経緯で何を根拠として選択したのか、施工業者の選定について設計コンサルタントがどの程度関与しているか、何社から見積りを取得したか、見積もりを依頼した施工業者は管理組合主体で選定されたのかといった情報を、あらかじめ確認する必要があるでしょう。

また、「設計コンサルタントを選定する際には何に注意すれば良いのか」という相談であれば、次のようなアドバイスが適切かもしれません。

  • 業務量と報酬のバランス:コンサルタント報酬のみを根拠に依頼先を選定してはならない
  • 実績確認とその信ぴょう性:コンサルタントの実績、事業規模、中立性、保有する資格
  • 見積内容の確認:設計コンサルタントの業務量(人・時間)が著しく抑えられていないか
  • 業務の適正性:設計コンサルタント業務の多くを占める工事監理の業務量が、著しく抑えられていないか

適切なアドバイスを行うためには、設計コンサルタントがどのような業務を担うかを正確に理解しておく必要があります。

これについては、国土交通省が実施した「大規模修繕工事及び大規模修繕工事の設計コンサルタント業務についての実態調査」の結果が参考になるでしょう。

マンション大規模修繕工事に関する実態調査について,設計コンサルタント業務について

実態調査による内訳で、調査・診断(15.2%)、設計(31.8%)、工事監理(40.3%)と回答されていることからも分かるように、これらの業務と比較すれば、施工会社の選定協力(8.1%)は大きな比率を占めているわけではありません。

にもかかわらず、施工業者の選定に過度な関与をしているように見える場合には、その理由や必要性を確認する必要があるでしょう。

必要に応じて、見積りの適正性を確認するため、先述した住まいるダイヤルの「見積費用確認サービス」や「マンションライフサイクルシミュレーション(長期修繕ナビ)」の利用を推奨しても良いでしょう。

そもそも、不動産業者の役割は専門外の領域にまで踏み込んで、知識や知見が不足しているのを自覚しながらもっともらしいアドバイスを行うことではありません。

自分が判断できること、判断できないことを明確に区別したうえで、相談者が適切に判断するために必要な情報や相談先を示すことなのです。

それだけに、共通の仕様で見積りを依頼できる、工事中の監理を独立して行ってもらえる、専門的な判断を委ねられるといったメリットは、「責任施工方式」では得られない「設計・監理方式」ならではの利点です。

こうしたメリットについて正確に理解したうえで、設計コンサルタントの選定や業務内容について、管理組合が適切に判断できるよう助言することが、不動産業者に求められているのです。

不動産業者が果たすべき役割

冒頭で触れた「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」の中間とりまとめの公表は、令和9年3月下旬頃を予定しているとされていますので、本稿執筆時点でどのような議論がなされたのかを伺い知ることはできません。

ですが、例えば産経新聞は有識者から、「業者選定や、見積金額の妥当性についての客観的な判断材料が不足している」「管理組合の力になる専門家が求められている」といった意見が出されたと報じています。

確かに、管理組合が受ける不利益を防止するためには、外部専門家の関与は不可欠です。

ですが、今回の事件では外部専門家として管理組合から信頼されるべき立場の設計コンサルタントが談合を主導していたのですから、本末転倒だとさえ言えるでしょう。

「令和5年度マンション総合調査」によれば、2025年末時点におけるマンションストック数は約723.6万戸とされています。

そのうち、2025年末で築40年以上のマンション数は約20%(158.8万戸)を占めているのです。

令和5年度マンション総合調査

さらに、築40年以上となるマンションは10年後に約2.0倍、20年後には約3.2倍にまで増加する見込みとなっているのです。

解説するまでもないと思いますが、マンションに限らず全ての建物は築年数が進むほど、修繕箇所が多くなり、費用もかさむようになります。

例えば、大規模修繕工事の実施時期を12~15年とした場合、新築後第一回目と第ニ回目の工事では通常、屋内共用給・排水管の取替や更新が不可欠とは限りません。

しかし、第三回目の大規模修繕工事においては、これらの設備についても更新を検討する必要性は高いといえるでしょう。

規模や戸数によって工事費用は変動するものの、かなりの負担が生じる可能性があるのです。

このように、築年数が進むほど大規模修繕工事の際、検討しなければならない修繕箇所は増えていく可能性があるのです。

RC造建物の平均寿命についてはさまざまな見解があるものの、適切な管理や修繕を実施することで長期間、例えば120年~150年使用することが可能であるとの見解も示されています。

それだけに、適切な大規模修繕工事の実施が重要だと言えるでしょう。

ですが、適切な管理や修繕が重要であることを理解していたとしても、管理組合が必要な知識を有しているとは限りません。だからこそ、外部専門家の関与が必要なのです。

しかし、「令和5年度マンション総合調査」を見ると、「外部専門家を活用したことがない」と回答した管理組合が、53.3%を占めていることが分かります。

令和5年度マンション総合調査,外部専門家の活用状況

つまり、信頼における外部専門家が身近に存在し、必要なときに相談できる体制を整えている管理組合は、それほど多くはないと推察されるのです。

管理組合の理事に、建築や工事監理などに精通している方がいらっしゃるのなら、「責任施工方式」で大規模修繕工事を発注するのも選択肢の一つです。

しかし、そのような条件を有している管理組合はそれほど多くはないでしょう。

だからこそ多くの管理組合が「設計・監理方式」を採用し、信頼できると感じた設計コンサルタンへ依頼をしているのです。

しかし、今回の事件で設計コンサルタンへ寄せられる信頼は、著しく低下した可能性があります。

くわえて、管理会社が施工会社から利益を享受していたとの報道が事実であれば、例えそれが一部の不心得業者による行為であったとしても、管理組合は一体、誰を信じれば良いのか分からなくなります。

だからこそ、不動産業者が果たすべき役割があるのです。

これまで論じてきたように、不動産業者は大規模修繕工事の設計や施工費の適正性を直接判断できる専門家ではありません。

しかし、管理組合から相談を受けた際、専門家へ丸投げするのではなく、どのような専門家に相談すべきか、どのような情報を確認しておくべきなのかを整理し、必要に応じて住まいるダイヤルへの相談など、第三者の意見を求めるように助言することはできます。

これは、自らの専門領域と専門外の領域を明確に区別しているからこそ可能となるアドバイスです。

今回の談合事件で明らかとなったのは、盲目的に、ただ「専門家に任せれば安心」という考え方だけでは、管理組合の利益を十分に守れないということです。

外部専門家の専門性を活用しながらも、その選定過程や業務内容を管理組合が確認し、必要に応じて利害関係のない専門家から意見を求める。

その仕組みを構築することが重要なのです。

私たち不動産業者は、正しい知見を持つことによって管理組合が適切な判断をするために必要な情報や相談先を示すことが可能です。

これにより、直接的な報酬を得ることはできませんが、管理組合からの信頼を得ることで、相続や売却、住み替え相談などが寄せられる可能性はあるでしょう。

「損して得取れ」との諺ではありませんが、目先の利益ばかりにとらわれず、長い目で大きな利益や信頼を得ることが、競争激化時代における不動産業者の「選択肢の一つ」だと、筆者は思うのです。

まとめ

ビジネスにおいて失墜した信用を回復するための労力は、並大抵のことではありません。

信用を得るためには、長い時間をかけて少しずつ誠実な努力を積み重ねる姿勢が不可欠である一方、一度失われた信用は一瞬にして信頼関係を崩壊させます。

今回の設計コンサルタントを巡る談合事件は、まさにそのことを痛感させる事例となりました。

しかし、私たち不動産業者は、この問題を決して「他業界の不祥事」と傍観してはなりません。

これまで、不動産業者がどれだけの不誠実な事件を起こし、そのたびにどのような影響を受けたかを忘れてはならないのです。

マンションの老朽化が進む日本において、適正な維持管理や大規模修繕は、マンションの売買価格のみならず、資産価値の維持にも影響を及ぼす、私たち不動産業者にとって身近なテーマです。

それだけに、「専門外の領域だから相談に応じる必要はない」と短絡的に判断するのではなく、相談者に対して適切な判断軸や相談先を示す「羅針盤」としての役割を果たすことが求められています。

自らの専門領域と専門外の領域を真摯に見極めたうえで、顧客の利益を守るために適切な選択肢や相談先を提示すること。

これこそが、不動産業者に求められる新たな価値であり、地域社会や顧客から真の信頼を獲得するために不可欠な、第一歩と言えるのではないでしょうか。

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監修者情報

H.L.C不動産コンサルティング 奥林洋樹
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