【相続相談に応じるなら理解は必須】法定相続情報証明制度の仕組みと実務上の注意点

相続相談に応じることで、相続不動産の取引に関与できる可能性が高まります。
そのため、相続相談には積極的に応じたいものです。
とはいえ、私たち不動産業者が対応できる範囲は、あくまで相続不動産の査定や取引実務に限定されます。
したがって、感情的な対立が発生して話し合いが進まないなど、いわゆる相続に関するトラブルが発生している場合には、自社だけで対応することが難しいケースもあります。
弁護士や司法書士とは違い、私たち不動産業者が担えるのは不動産に関する業務のみです。
そのため、相談者から聞き取りを行なったうえで情報を整理し、必要に応じて専門家への相談も視野に入れた適切な助言を行うところまでが業務範囲となります。
けっして、弁護士法に抵触するような法的アドバイスや代理人としての交渉を行ってはなりません。
しかし、情報を整理し、適切な助言を行うためには、相続に関する基礎知識が欠かせません。
むしろ、初回相談に応じて内容を整理し、必要に応じて適切に専門家へつなぐ交通整理役こそが、私たち不動産業者に求められる重要な役割と言えるでしょう。
そして、相続相談に応じる際、まず確認すべきなのが相続人の人数やその関係性、さらには相続財産の具体的な内容です。
そのため、まずは被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて収集しなければなりません。
本籍地と住所が異なるケースは往々にしてあり、さらに婚姻や転居の回数によっては、この戸籍の収集が非常に煩雑となります。戸籍が束になる場合もあるほどです。
そして、この戸籍の束は不動産登記はもとより、銀行や証券会社の手続きにおいて個別に必要となります。つまり、戸籍の収集だけでも大きな労力と手間を伴うのです。
そのような負担を軽減できるのが、法定相続情報証明制度です。

法定相続情報証明制度とは、相続人が法務局に必要な書類を提出して申出を行うことで、登記官がその内容を確認し、法定相続人の範囲を一覧化した『法定相続情報一覧図』の写しを無料で交付してくれる制度です。
そして、法定相続情報証明制度に基づき発行される『法定相続情報一覧図』は、相続人の関係を示す公的な書類として、多くの金融機関や各種相続手続きにおいて戸籍の束に代れて利用できるのです。
ただし、非常に利便性の高い制度ではある一方で、申出方法や続柄の記載内容、代理申請が認められる資格者要件など、様々なルールが設けられています。
本稿では、法定相続情報証明制度と『法定相続情報一覧図』の概要、さらには申出時における注意点について解説します。
法定相続情報証明制度とは?
法定相続情報証明制度は、平成29年(2017年)5月29日に運用が開始された制度です。
したがって、知っている人はすでに知っている制度と言えるでしょう。
しかし、本制度が俄然注目されるようになったのは、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されてからです。
制度創設の目的は相続登記のみならず、預貯金の払い戻しなど、複数の相続手続きで繰り返し戸籍一式を提出しなければならない相続人の負担を軽減するためです。
従来は、相続財産が複数あり、金融機関や証券会社が複数に及ぶ場合には、個別に戸籍の束を用意する必要がありました。
都度返却してもらう方法もありますが、時間的な手間はもとより紛失リスクも伴います。
そこで導入されたのが、法定相続情報証明制度です。
相続人または代理人が必要書類を法務局へ提出し、登記官による確認を受けることで、「法定相続情報一覧図」の写しの交付を無料で受けられます。
この一覧図は、戸籍から確認できる法定相続人の範囲を一覧化したものであり、多くの相続手続きにおいて戸籍一式に代えて利用できるのです。
ただし、一覧図が交付されるからといって戸籍の収集が不要となるわけではありません。
そもそも、申出時には戸籍一式の提出が必要ですし、手続きの内容や「法定相続情報一覧図」への記載内容によっては、追加書類の提出を求められる場合もあるからです。
そのため、「戸籍を完全に置き換える制度」ではなく、「戸籍の提出を何度も繰り返す負担を軽減する制度」であると理解し、相続人に対しても同様に説明すると良いでしょう。
この制度は、あくまで戸籍謄本の束に代わるオプションを追加したものに過ぎず、相続法規や遺産分割協議の書類とは異なります。
とはいえ、預貯金の解約や有価証券の名義変更、各種相続手続きなど、幅広く活用できるのも事実です。
しかし、相続相談に応じる不動産業者としては、一覧図の作成そのものよりも「どのような相続関係であれば一覧図を作成できるのか」「戸籍からどのように相続人を読み取るのか」を理解しておくことのほうが重要です。
これは、一覧図に記載される内容を理解しているだけでも、相談者への説明が格段にしやすくなり、さらに、弁護士や司法書士などへ相談を引き継ぐ際にも、より正確な情報共有が可能となるからです。
それだけに、制度について正確に理解したうえで、申出方法や必要書類、一覧図作成時によくある間違いのほか、代理申出ができる資格者代理人の範囲などについて説明できるように備えておく必要があるのです。
次章では、法定相続情報一覧図に記載される内容と、その見方について解説します。
法定相続情報一覧図に記載される内容と留意点
法定相続情報一覧図は、提出された戸籍などを基に、法務局がその内容を確認したうえで交付する公的な書類ですが、戸籍をそのまま写したものではありません。
被相続人の氏名、生年月日、最後の住所と本籍、死亡年月日などの情報に加え、法定相続人の氏名や住所、生年月日、続柄などが系統図形式で整理されたうえで記載されます。

一方で、相続人の本籍や戸籍筆頭者、婚姻や転籍の履歴といった戸籍固有の情報までは記載されません。
つまり、相続関係を確認するうえで必要となる戸籍上の相続関係を一覧化した書類に過ぎないのです。
例えば、被相続人に配偶者と子が2人いる場合には、被相続人を起点として配偶者と2人の子が系統図に表示され、さらに、子がすでに死亡している場合には代襲相続人として孫が記載されます。
しかし、その一方で、遺産分割協議によって財産を取得しない相続人であっても、一覧図には法定相続人として記載されます。
また、一覧図は戸籍に基づいて作成されるため、家庭裁判所で相続放棄した事実は一覧図に反映されません。
そもそも、法的には相続人が相続を放棄した場合、最初から相続人ではなかったとみなされます。
したがって、孫など下の世代に代襲相続は発生しません。
このような制度の仕組みや留意点を、私たち不動産業者が正確に理解したうえで説明しなければ、相談者が「一覧図さえあれば相続手続きはすべて完了できる」と誤解してしまう可能性があるのです。
先述したように、一覧図は戸籍から確認できる相続関係を一覧化した資料に過ぎず、遺産分割協議書や遺言書とは役割が異なります。
そのため、それぞれの書類が果たす役割の違いについても、相談者へ適切に説明できるように備えておく必要があります。
さらに、私たち不動産業者は、法定相続情報一覧図だけを根拠に個別の相続手続きを判断するのではなく、必要に応じて戸籍や遺言書、遺産分割協議書の内容を確認し、一覧図だけで判断しない姿勢を徹底しなければなりません。
法定相続情報一覧図の申出に必要な書類
法定相続情報一覧図の申出を行うためには、まず必要書類を揃えなければなりません。
申出書や法定相続情報一覧図そのものは申出人が作成して申請しますが、それ以外に必要となる主な書類は次のとおりです。
- 絶対に必要な書類
1.絶対に必要な書類
① 被相続人(亡くなられた方)の戸除籍謄本
※出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本および改製原戸籍が必要です。

② 被相続人(亡くなられた方)の住民票の除票
※被相続人の住民票の除票が市区町村において廃棄されているなど取得できない場合には、被相続人の戸籍の附票が必要となります。
③ 相続人の戸籍謄抄本
※相続人全員の現在の戸籍謄本又は抄本を用意すると同時に、その証明日は被相続人が死亡した日以後のものが必要です。
④ 申出人(相続人の代表となって、手続を進める方)の氏名・住所を確認することができる公的書類
※次のいずれか
- 運転免許証の表裏両面のコピー
- マイナンバーカードの表面のコピー
- 住民票記載事項証明書
1-1.必要となる可能性がある書類
⑤ 各相続人の住民票の写し:法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合
※法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載するかどうかは、相続人の任意であるため、記載する場合に限り住民票の写しが必要となります。
⑥ 委任状:委任による代理人が申出の手続をする場合
- 委任状
- 申出人と代理人が親族関係にあることが分かる戸籍謄本(親族が代理する場合)
- 資格者代理人団体所定の身分証明書の写し等(資格者代理人が代理する場合)
※なお、親族以外で申出を代理できる資格者代理人は、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士など法令で定められた者に限られます。
2.法定相続情報一覧図の作成
必要書類の準備が終わったら、次に「法定相続情報一覧図」を作成します。
法定相続情報一覧図の様式は法務局のホームページで提供されていますが、相続人の人数等によって使用する書式が異なるため注意が必要です。
もっとも、記入内容は様式で示された必要事項を戸籍の記載に従って転記するだけですから、それほど複雑な書類ではありません。
ただし、一覧図の作成に当たっては、戸籍から読み取れる法定相続関係を正確に反映させる必要があります。
続柄の記載漏れや戸籍の読み違いがあると、法務局から補正を求められることがあるからです。
また、遺産分割協議によって財産を取得しない相続人がいる場合でも、そのことを理由として法定相続情報一覧図から省略してはなりません。

これは、法定相続情報一覧図が、「遺産を取得したのは誰か」を証明する書類ではなく、戸籍から確認できる法定相続関係を一覧化した公的書類だからです。
一方で、相続放棄は家庭裁判所で行う手続きであり、法定相続情報制度とは別の制度です。
そのため、相続放棄の事実を一覧図のみで証明することはできません。
したがって、相続放棄の事実を第三者に対して証明するためには、法定相続情報一覧図とは別に、『相続放棄申述受理通知書』または『相続放棄申述受理証明書』を提示する必要があるのです。
なお、『相続放棄申述受理通知書』と『相続放棄申述受理証明書』は、どちらも家庭裁判所が相続放棄の申述を受理したことを示す書面です。
通知書は、受理の連絡として申述人に1通だけ交付される書面であるため、紛失しても再発行されません。
一方で、証明書は家庭裁判所に交付申請を行えば、何通でも発行(有償)してもらえます。
どちらの提出を求められるかは提示先次第ですが、事実確認を行うだけであれば通知書で足りるケースが多い一方で、債権管理などの厳格な手続きでは証明書が求められる傾向にあります。
ですが、先述したように証明書は再発行できないため、原本の取扱には注意が必要です。
このように、法定相続情報制度と相続放棄の手続きは、それぞれ根拠法令も手続機関も異なります。
そのため、相続放棄を予定している場合には、必要に応じて並行して手続きを進めることが肝要です。
これらが準備できたら、次に申出書の作成です。
申出書の様式も法務局のホームページから提供されており、記載する際の注意事項についても併せて公開されています。

必要事項を漏れなく記載すれば良いだけではあるものの、法定相続情報一覧図や添付する戸籍謄本等の内容と完全に一致していることが求められる点には留意が必要です。
また、法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載するかどうかは任意とされていますが、預貯金の解約や不動産の相続登記においては住所を記載しておいた方が、手続きをより円滑に進められる場合があります。
なお、法定相続情報一覧図は、一度交付されると内容を書き換えることはできません。
そのため、記載された住所から転居した場合には、現在の住所を証明するための書類(住民票や戸籍の附票等)を提示することで証明を行います。
なお、金融機関など取扱先によって求められる必要書類が異なる場合もあるため、実際の手続きにあたっては、提出先へ事前に確認しておくと安心です。
法定相続情報一覧図の申出方法と交付までの流れ
法定相続情報一覧図と申出書が完成したら、必要書類を添えて法務局へ申出ます。
もっとも、全国どの法務局へ申出ても良いとはされていません。
申出先は次のいずれかを管轄する法務局に限られているからです。
- 被相続人の本籍地
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人の住所地
- 被相続人名義の不動産所在地
申出は窓口へ直接持参するほか、郵送やオンラインによる申請も可能です。
特に、オンライン申請では不動産登記の申請書の添付情報欄に「登記原因証明情報(法定相続情報番号○○○○-○○-○○○○○)」と記載することで、法定相続情報一覧図の写しの添付を省略できます。
ただし、法定相続情報一覧図の写しを添付する必要がないため手間を省けるメリットがある一方で、法定相続情報番号を利用できるのは不動産登記の申請など法務局のオンライン手続きに限定されています。
金融機関や証券会社などで利用する予定がある場合には、直接持参又は郵送による申出のいずれかを選択する方が、実務上便利な場合が多いでしょう。
また、申出人となれるのは被相続人の相続人のほか、法令で認められた代理人に限られます。
私たち不動産業者が有する宅地建物取引士資格では代理申出を行う資格を満たしていないため注意が必要です。
法務局では、提出された戸籍や申出書、法定相続情報一覧図の内容を登記官が確認したうえで不備がなければ、認証文付き法定相続情報一覧図の写しを交付してくれます。

一概には言えませんが、申出から交付までの日数は、数日から1週間程度が一つの目安です。
ただし、繁忙期には通常より時間を要することがあるため、申出時に確認しておくと安心です。
なお、交付されるのは原本ではなく、「認証文付き法定相続情報一覧図」の写しです。
しかし、法務局の認証を受けていることから、多くの金融機関や証券会社、不動産登記などの相続手続きで戸籍謄本の束に代わる公的書類として利用できるのです。
申出を含め、認証文付き法定相続情報一覧図の写しの交付について手数料等が求められることはありませんが、交付されるのは申出書に記載した必要通数となります。
保管期間内であれが再発行も可能ですが、保管期間は交付申出の翌年から起算して5年間とされている点、加えて、再交付の申出が認められるのは、当初一覧図の保管及び交付の申出を行なった申出人に限られる点に注意が必要です。
他の相続人が再交付を希望する場合には、当初の申出人による委任が必要となるため、留意が必要です。
また、前項で法定相続情報一覧図は、一度交付されると内容を書き換えることができないと解説しましたが、被相続人の死亡後に子の認知があった場合や、被相続人の死亡時に胎児であった子が生まれた場合、または一覧図の写しが交付された後に廃除があった場合など、被相続人の死亡時点に遡って相続人の範囲が変わる場合には、法定相続情報一覧図を作成し直し、再度申出を行うことは認められています。
このように、一定の例外が設けられている一方で、法定相続情報一覧図は万能な書類であるとまでは言い切れません。
金融機関によっては追加書類として、遺言書や遺産分割協議書の提出が求められる場合もあります。
したがって、私たち不動産業者は制度上の仕組みや必要書類、申出方法に関する知見はもとより、法定相続情報一覧図の限界についても理解を深め、「法定相続情報一覧図は相続手続きを円滑に進めるための基礎資料ではあるが万能ではない」と正しく説明を行うことが肝要です。
まとめ
法定相続情報証明制度は、戸籍謄本の束に代わって相続手続きを円滑に進めることを可能にする利便性の高い制度です。
特に、相続登記が義務化された以降は相談件数も増加傾向にあるため、不動産業者にとって欠かせない知識となっています。
ですが、法定相続情報証明制度に基づき交付される「認証文付き法定相続情報一覧図」は、あくまでも法定相続関係を証明するための書類であり、遺産分割の内容や相続放棄の事実までを証明できるわけではありません。
したがって、一覧図だけを根拠に個別の相続関係や権利関係が判断できるとは限らないのです。
不動産取引を取り扱う私たち不動産業者は、法定相続情報一覧図のみで判断するのではなく、必要に応じて戸籍や遺言書、遺産分割協議書を確認する配慮が必要なのです。
これは、相談者に対して法定相続情報証明制度の活用を提案する場合にも求められる配慮です。
そもそも、私たち不動産業者に求められるのは法的判断や紛争解決ではありません。
それ以前に、そのような業務を受任してはならないのです。
私たちが担うのは、相続人や相続関係を整理し、相談者の状況に応じて適切な助言や専門家への橋渡しを行うことです。
そのために必要とされる知識、例えば本稿で解説した法定相続情報証明制度の仕組みや申出方法、活用場面や留意点を正確に理解しておくことが求められているのです。
これこそが、相談者からの信頼を高め、相続不動産の取引を円滑に進めるための大きな強みとなるでしょう。
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